月曜朝礼 新刊紹介
(帯) 「清少納言が私に乗り憑(うつ)ってくれた」
平安を代表する女の恋と人生。九十歳の人生をかけて描いた、渾身の書下ろし小説。
千年前も今も、女はかくも強く、かくも美しい。
わたしはさて、何歳になったのだろう。自分の年齢さえほと忘れてしまうほど長く生きてしまった。
生き過ぎた。いや、生き飽きた。……
若き日に使えた中宮定子は25歳で亡くなる。以来、御陵のそば、月の輪の庵で祈る生活。定子との思い出、自らの人生をふり返る。
清少納言の父は和歌所寄人。
自分の生家が歌を仕事にしてきた家系だというのが、わたしには幼い時からの心の誇りだった。
中宮さまが性格にわたしの家系をご存知、いつか、ほととぎすを他の女房たちと嵯峨の方へ聞きに行って帰った時、その歌を詠めとお命じになった折にも、詠みあぐねているわたしに、
「清原の末なのに……」
とおっしゃってにっこりお笑いになりおからかいになったこともあった。……
何か書けと、中宮さまから立派な紙を拝領して、さて何を書こうかと迷っていた頃、たまたまふたりだけになった折、中宮さまが、ふっとつぶやかれた。
「春は一日のうちでいつがいいだろうね」
「春はあけぼの……」
と、反射的にお答えしていた。
「夏は」
「夜」
「秋は」
「夕暮」
「冬は」
「早朝」
矢継早にお問いになるのに打てばひびくようにお答えしていると、面白くなってつい中宮さまと声をあわせて笑ってしまった。その瞬間、あ、これを書きとめようと思いついた。……
富み栄えていた定子の実家・関白家は悲運が重なり、悲劇は定子にも。
清少納言も結婚、離別……。
もう何年も泣くことを忘れていたのに、気がつくと、わたしの皺ばんだ頬に熱い涙が流れていた。
わたしの死を泣きながら見送ってくれる人達は、もう一人もいない。ふたりの夫、ひそかに情を交わした有縁の男たち……。すべては過ぎ去ってしまえば一様に幻だ。霏々と降る雪がかき消してしまう幻。
装幀:横尾忠則
【芸能】 アカヘル
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(平野)