週刊 奥の院 11.3

■ 三砂ちづる 『抱きしめられたかったあなたへ』 講談社+α文庫 733円+税 

 1958年山口県生まれ、兵庫県西宮市育ち。津田塾大学教授、専門は疫学・母子保健。著書、『オニババ化する女たち』(光文社新書)他。
 本書は、2009年刊『タッチハンガー』(マガジンハウス)を改題、加筆、改筆。
「満たされない思いを抱えたまま孤独にがんばっている現代日本女性にやさしく語りかけるエッセイ」
 タッチ=ふれること、ハンガー=飢え、それは母なるものへの渇望。
 
 国によって時代によって、育児の考え方は変わってきた。戦後のアメリカ式は、赤ちゃんが泣いても放っておく、泣くたびに抱いていては自立した子は育たない、という考え。日本では60年ごろに取り入れられたとか。のちにアメリカでは否定された方法。今、子どもを生み育てる世代の親がその影響を受けている。著者を含め、その世代全体が「抱きしめられていない」。

 その後でしたか、親子の「スキンシップ」が大切とさかんに言われました。

 あなたが欲しいのは、燃え上がるような恋愛でしょうか。身も心も焼き尽くすような、激しい恋でしょうか。恋人が欲しい、誰かにそばにいてほしい、という思いは、しかし、ひょっとしたら、そっと誰かに抱きとめられ、受けとめられ、背中をなでてもらいたいということではないでしょうか。
 今の日本では、恋愛を通じてしか抱きしめられ、やさしくなでてもらうことができなくなってしまっています。セクシャルなことのもっともっと前に、そっとふれられたい、しっかり抱きしめられたいという、人としての欲求があるということに、なかなか気づけずにいます。……
 生まれてきた日、わたしたちはみんな、世界への信頼に満ちていました。人の間に生を受けて、人の間に抱きとめられることを期待していました。でも、生きていくことは思いどおりにならないことの連続でしたね。ふれてもらいたいときにふれてもらえなかったのは、あなたのわがままのせいではありません。周囲のおとながあなたの求めるものに気づけなかったのです。ふれてもらえなかった思いの連なり、それを「タッチハンガー」と呼んでみましょう。

 赤ちゃんが泣くたびに抱くと「抱き癖がつく」とか言いました。私の母親は、赤ちゃんが泣いたら、お腹へっているか、オムツか、熱で、抱いたらわかると、妻に言っていた。
 吉本隆明は、赤ちゃんが胎内にいるときの母親の気持ち安定と乳幼児期の接触の大切さを言っている。
 著者はブラジルに10年住んだ。貧富の差や治安の悪さはあるが、「人と人の親しみに満ちたありよう」「どこに行っても受けとめられていると感じられる人間関係の親密さ」を恋しく思う。「人間と人間との関係においてとても成熟している国」。家族は必ず抱擁しあうし、友人同士もハグする。

 わたしたちの文化は抱擁の文化ではありません。膝枕をしたりおんぶしたりといった、ほかのやり方でふれてきたのですが、からだごと受けとめられる気持ちよさは何にも代えがたい。子どものころからしっかり抱きしめられてこなかったわたしたちは、ペットやぬいぐるみで代用したりします。わたしたちはそういうふるまいを自然にはできません。
 わたしたちができなくても、次の世代の人はできるようになってくれるといいなと思います。そのために、子どもたちだけでもしっかりと、できるだけ大きくなるまでだきしめてやりたい。自分の子どもでも自分の子どもでなくても。そのようにして子どもたちが育つようになれば、彼らが社会をよりやさしい方向に導いてくれるかもしれませんから。

第1章 抱きしめられたかったあなたへ
第2章 母と「わたし」の関係に悩むあなたへ
第3章 「今」にみたされないあなたへ
第4章 母になることを考えるあなたへ
あとがき――母なるものを求める

 (平野)
 友だち親子とか、母と娘の共依存とか、母原病とか、マザコンとか、母親の影響は父親よりかなり大きい。父親はどれくらい子どもに功罪があるのか。父親にできることは何でしょう。個人的には「威厳」とか「乗り越える存在」とかは無理なので、育児にできるだけ参加することしか思いつかなかった。
 忘れてました。本書の編集担当UさんはGFです。

【海】HP更新しました。
 http://www.kaibundo.co.jp/index.html