月曜朝礼 新刊紹介

【文芸】 クマキ 
■ 柚木麻子 『私にふさわしいホテル』 扶桑社 1429円+税
 

 ホテルのエントランスに続くゆるやかな坂道に、八月の木漏れ日が差し込み優雅な模様を作っている。蝉の声なんていつもは煩わしいだけなのに、明治大学の建物を取り巻く木々から聞こえるそれは、サワサワと心地良くさえあった。ウェハースを王冠の形に積み上げたような、アールデコ様式の本館が姿を現すにつれ、私の胸はどんどん高鳴っていく。正面玄関脇の面格子を飾る、遠峯健氏による「山の上ホテル」の涼やかなフォントを見つめ、心の中で呼びかけた。
 ただいま――、私のためのホテル。
……

 自腹を切ってホテルで執筆する、まだ1冊も本が出ていない作家・中島加代子。
「元アイドルと同時受賞」というデビュー、「単行本出版阻止」「有名作家と大喧嘩」「編集者に裏切られる」……何があってもあきらめない不屈の主人公。
文壇暴露小説。 
 書評家・豊崎社長が、
「ユズキ、直木賞、あきらめたってよ(笑)」
と推薦文。
 1981年東京生まれ。2008年オール讀物新人賞。10年『終点のあの子』でデビュー。 

■ 小田雅久仁 『本だって雄と雌があります』 新潮社 1600円+税
 大阪の旧家の書庫で起こる奇跡。書物と書物が交わり、見たこともない本が現れる。

 あんまり知られてはおらんが、書物にも雄と雌がある。であるからには理の当然、人目を忍んで逢瀬を重ね、ときには書物の身空でページをからめて房事に励もうし、果ては跡継ぎをこしらえる。毛ほども心あたりのない本が何喰わぬ顔で書架に収まっているのを目に止めて、はてなと小首を傾げるのはままあることだが、あながち斑惚けしたおつむがそれを買いこんだ記憶をそっくり喪失してしまったせいばかりとは言えず、実際そういった大人の事情もおおきに手伝っているのだ。……

 著者、1974年仙台生まれ。関西大学法学部卒業、豊中市在住。09年『増大派に告ぐ』でファンタジーノベル大賞。

【児童】 クリスマスブック
■ ジョーン・G・ロビンソン 作・絵  小宮由 訳
『テディ・ロビンソンとサンタクロース』 岩波書店
 1500円+税 
 ぬいぐるみのテディ・ロビンソンはデボラちゃんのもの。クリスマスが近づき、デボラがクリスマスキャロルを教えてくれるが、上手に歌えない。テディ・ロビンソンはみんなにあげるプレゼントがないので、歌をきかせてあげようと一生懸命。
イヴの夜、デボラが眠るとママがふとんをかけ直しにきて、テディ・ロビンソンを出窓に坐らせた。
教会の鐘が12時を打つと、シャンシャンシャンと鈴の音。テディ・ロビンソンの頭の中に歌が浮かんできた。冷たい風とともに部屋に入ってきた人がいる。
思い出した。その人が誰で、自分がどうしてデボラのところにいるのかを。
 
■ ルース・ソーヤー、アリソン・アトリー ほか 文
上條由美子 編・訳  たかおゆうこ 絵
『クリスマスのりんご  クリスマスをめぐる九つのお話』 福音館書店
 1500円+税 
 表題作はドイツの時計作りのおじいさん・ヘルマンのお話。
 やさしいヘルマンじいさんは子どもたちのおもちゃを直してあげる。クリスマスには神さまに仕掛け時計を贈ろうと、他の仕事をせずに作った。わずかに残ったお金でりんごを一つだけ買った。時計を教会に持って行こうとした時、隣のトルーデちゃんが泣きながらやって来た。おとうさんがケガをしてクリスマスのお祝いができない。ヘルマンじいさんは仕掛け時計を売ることに。……

(平野)