週刊 奥の院 10.20

■ 小熊英二 編著 『平成史』 河出書房新社 河出ブックス 1800円+税
小熊英二  序文 
小熊英二  総説 「先延ばし」と「漏れ落ちた人びと」
菅原琢   政治 再生産される混迷と影響力を増す有権者
中澤秀雄  地方と中央 「均衡ある発展」という建前の崩壊
仁平典宏  社会保障 ネオリベラル化と普遍主義化のはざまで
貴戸理恵  教育 子ども・若者と「社会」とのつながりの変容
濱野智史  情報化 日本社会は情報化の夢を見るか
小熊英二  国際環境とナショナリズム 「フォーマット化」と擬似冷戦体制
      平成史略年表

「序文」より。

「平成史」というと、読者はどんなものを思い浮かべるのだろうか。言葉を換えて言えば、何を書いたら「平成史」を描いたことになるのだろうか。そもそも、そんな直近のことが「歴史」になるのか、という問いもあるだろう。……

「昭和」から「平成」の時代を概観してくれる。
 日本は経済成長を謳歌、世界では冷戦体制とその終焉。日本政治は冷戦「五五年体制」であったが、その時期にもっとも栄えた。そして冷戦後のグローバル化と国際秩序変化に対応できなかった。この時期、「第二次世界大戦の最後の指導者の生き残りが、生物学的な生命を終えた」。
 

 その後の社会変化を描くのが、「平成史」の役割となる。それは、冷戦期に栄えた日本の体制の終わりの過程であり、いま問い直すに値する歴史である。たとえ直近のことであろうと、その重要性はあると考える。

 先例がある。1955年刊行の『昭和史』(岩波新書)は明快。

戦争と、戦争に至るまでの経緯を描くことが、すなわち「昭和史」を描くことであった。

 では、「何を描けば平成史を描いたことになるのか」。
小泉改革」か、「オウム真理教」か。それとも「バブル経済」?
75年頃まではその時代を表す代表的な出来事があった。「60年安保」「高度成長」「ビートルズ」「バリケード」「連合赤軍」。芸能人でも政治家でも名前を挙げて時代を語ることができた。政治では、平成の24年間で首相は17人目、不安定な状況が続く。「昭和」とどう違うのか。「平成」でいかなる社会変化があったのか。
 たとえば、自動車は工業化時代のシンボルだった。国家のステイタスがその国の自動車会社に象徴され、どんな自動車に乗っているかがその人間のステイタスだった。借金してでも自動車を買った。だが、いまの若者は自動車を買わない。「貧しい」ということもあるが、資産があっても買わない人も多い。
「それは純粋に経済的なものというより、社会意識の変化なのだ」
小熊は、日本型工業社会の変化から「平成史」と社会意識の変遷を見る。
(平野)