週刊 奥の院 10.14

■ 鶴見俊輔 『身ぶりとしての抵抗』  黒川創 編 鶴見俊輔コレクション2
河出文庫
 1300円+税  解説 川上弘美
目次  
1 わたしのなかの根拠  「殺されたくない」を根拠に 遠い記憶としてではなく 方法としてのアナキズム 『日本好戦詩集』について 「君が代」強制に反対するいくつかの立場 他
2 日付を帯びた行動  いくつもの太鼓のあいだにもっと見事な調和を すわりこみまで――反戦の非暴力直接行動 おくれた署名 小田実――共同の旅はつづく 他
3 脱走兵たちの横顔  脱走兵の肖像 ポールののこしたもの アメリカの軍事法廷に立って ちちははが頼りないとき――イークスのこと 他
4 隣人としてのコリアン  詩人と民衆 挑戦人の登場する小説 金石範『鴉の死』 金時鐘猪飼野詩集』 金鶴泳『凍える口』 他
5 先を行くひとと歩む  コンラッド再考 田中正造――農民の初心をつらぬいた抵抗 明石順三と灯台社 他

殺されたくない」を根拠に より
 9・11後に始まった京都のピース・ウォーク、第1回に集まった150人のうち100人が女性。かつてのベトナム戦争反対デモとは性格がちがっている。
 鶴見は1945年8月15日に土岐善麿が歌った一首を思い出す。
 あなたは勝つものとおもつてゐましたかと老いたる妻のさびしげにいふ
 土岐は啄木の友人で、明治・大正には戦争反対、朝鮮併合にも反対した。しかし、昭和の戦争には肩入れした。敗戦後、土岐は妻が別の思いをもち続けていたことを理解した。

……敗戦当夜、食事をする気力もなくなった男が多くいた。しかし、夕食をととのえない女性がいただろうか。他の日とおなじく、女性は、食事をととのえた。この無言の姿勢の中に、平和運動の根がある。
 大正時代に反戦の言論を張った知識人は多いが、昭和の長い、十五年つづく戦争の中で、誰がその立場を守り得たか?
……日本の知識人全体の、この連続転向を問うことが必要だ。戦争反対の根拠を、自分が殺されたくないということに求めるほうがいい。理論は、戦争反対の姿勢を長期間にわたって支えるものではない。それは自分の生活の中に根を持っていないからだ。……

 川上もこの文章に触れている。
 

 強制ではない、ゆるやかな個人的な意思をもつ集まりが原発に対する反対の意思をあらわしつづけている、そのことは、原発事故後のさまざまな不信感からくるやりきれなさの中で、大きなよりどころと感じられます。こういうのって、この国では、初めてのことじゃないかな。デモのニュースを見ながら、わたしは思っていたのです。でも、鶴見さんのこの文章を読むと、そうでないことがはっきりわかります。
 あったのです。ずっと。強制によるものでもなく、大きなうねりに流されるようにでもなく、うわずった理想主義にもおかされてもおらず、ただ個人が個人として考えたすえに、「せねば」という結論に達し、細々とではあるけれど続けられてきた、いくつものおもてにはあらわれなかった、貴重な抵抗が。……

(平野)
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