週刊 奥の院 10.13

■ 栗原哲也 『神保町の窓から』 影書房 2200円+税
 日本経済評論社社長。1941年群馬県出身。1970年、勤めていた出版社の先輩と同社設立。名称のとおり経済研究の専門書を中心に出版。創立から5年は何度もピンチがあったが、80年には社員は20人を越えた。

…… 
 だが、そうは問屋は卸しません。創立から一〇年目、一九八一年三月末、教育会館で債権者集会を開くという事態を迎えました。倒産が目前に迫ってきたのです。負債内容を公開して債権者に懺悔。……
(栗原が社長になり、取引先の支援で凌げた。社員は3人になった。尊敬する出版社の社長が「そんな会社にかかわるな」と忠告してくれたが)
……もう手遅れでした。「そんな会社」と言われるが、これは私たちが生きてきた会社なのでした。

 本書はPR誌「評論」のコラムをまとめたもの。さきの出版社社長は「君のところでPR誌を出すなんて一〇年早い」と睨んだそう。
「出版は資本主義には似合わない」(2010・6)より。
 

 また決算月がやってきた。毎年のことながら、あまり歓迎できる月ではない。出版界はあの社もこの社も決算数字を下げて、渋面をつくっている。悲鳴をあげている人もいるが、やめたいと言っている人は見あたらない。本来、出版は苦しいときほど愉しいはずなのだ。が、そんな気楽なことばかり言っていられない内容もある。……(未払い印税のこと。著者の督促もある)……
 一〇年前も、その一〇年前も言っていた。専門書が売れなくなることに並行して、専門書は貧乏な出版社、貧しい著者には出せなくなるか、相当な厳しさが要求されるだろう、と悲しい予感のなかに生きてきた。事態は好転しなかったが、出版を続けることができた。やめずにいられた訳は、難しいことではない。われわれが貧苦に堪えながらも出版に対する責任を果たそうとしてきたこと、その姿勢に多くの研究者が協力や助力を惜しまず提供し続けてくれたからだ、と思っている。……著者は客ではない。同志なのだ。著者と読者との仲立ちこそわれわれの仕事なのだ、と改めて心する。印税については、払わないといったことはありませんが、はっきり払うとも言えていない。何だ、結局、払えないのじゃないか。やはり出版は、資本主義には似合わない。 

 (帯)に「著者の半世紀に及ぶ悪戦苦闘・善戦健闘の本と人をめぐるヒューマン・ドキュメント」とある。
 コラムは日々雑感エッセイではない、専門書小出版社の切実な記録である。
(平野)