週刊 奥の院 10.6

■ 宮崎正勝 『海図の世界史 「海上の道」が歴史を変えた』 新潮選書 1400円+税
 著者は1942年東京生まれ。高校教諭(世界史)、大学講師から北海道教育大学教授、07年退官。『イスラム・ネットワーク』(講談社)、『ジパング伝説』(中公新書)、『海からの世界史』(角川)他、著書多数。
 地図には2種類ある。陸上を描く「マップ」、海上での航海のための正確な経線・緯線のある「チャート」。地球の表面は、海と陸、7:3。海上の道路が重要。新大陸発見、産業革命、資本主義の誕生、戦争……、「海図を知らなければ世界史は理解できない」。

目次
まえがき――ラス・パルマスでの着想 
第1章 地球を構成する三つの「世界」
第2章 「第一の世界」を俯瞰したプトレマイオスの世界図
第3章 大航海時代を支えたポルトラーノ海図
第4章 「第二の境」の形成
第5章 遅れて登場する「第三の世界」
第6章 三つの「世界」を定着させたフランドル海図
第7章 イギリス海図と一体化する世界
あとがき

……大乾燥地帯から始まった文明が、地球規模に拡がっていく際に大きな障害になったのが、地表の七割を占める海だった。海上に道路が拓かれなければ、遠く離れた陸地は互いに結び付くことができない。世界地図を見ると分かるが、ユーラシアとアフリカは陸続きであるが、ユーラシアと南・北アメリカ、オーストラリアの間には大きな海が横たわっている。当たり前といえば当たり前の話だが。
……「海上の道路」を拡充するのは、そんな簡単なことではない。「海上の道路」は陸上の道路とは違い、航路の度ごとに蜃気楼のように消え失せてしまうのである。そこで、「海上の道路」を復元するための海図が航海には欠かせない存在になった。海図の集積により、海のネットワークが維持されたのである。いわば海図の作成が、陸上の道路、道路網の建設と同様の機能を果たしたと言える。……

 著者がこの事実に改めて気づいたのは、モロッコ沖合い、カナリア諸島ラス・パルマスにあるコロンブスゆかりの博物館「コロンの家」。地図・海図・地球儀を眺めていた時、脳裏に浮かんだ言葉は、「リスク」。

……そもそもはアラビア語に由来する航海用語で、「海図のない航海」を意味していた。陸上で言えば、道なき道を歩むようなものである。……最初は心もとない航海であろうと、一度海図が描かれれば、未知の海域が通常の航海の場へと姿を変えることになる。
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「海図」を手掛かりに「世界図」の変遷、「海上の道路」網の形成過程をたどる。
 目次にある「三つの世界」とは。「第一」がユーラシア、アフリカとインド洋、「第二」がコロンブスの探検以降明らかになった南北アメリカと大西洋、「第三」がマゼラン航海以降明らかにされたオセアニアと太平洋。
海図こそが三つの「世界」を結ぶ「海上の道路」を構築し、現在の世界をつくりあげたのである。
(平野)