週刊 奥の院 10.1

■ 野坂昭如 『終末処分』 幻戯書房 1900円+税 
 

昭和53(1978)年「小説現代」に短期連載した作品。書き下ろし「大量生産、大量消費に終わりが来るとき」併録。

(帯)原子力ムラ黎明期のエリートが、その“平和利用”に疑問を抱き……。政・官・財界の圧力、これに搦め捕られていく学会の“信仰”、マスコミという“幻想”。……

 高畑は48歳、東大経済学部卒、一流銀行から電源開発公社に移り、プリンストン大学原子力応用科留学。原子力平和利用のパイオニアだったが、放射能廃棄物の処置(フランスの指導で再処理工場を造る)が原子力界の意に沿わなかった。さまざまな中傷、スキャンダル捏造、脅迫で、辞めた。現在は総会屋雑誌連載が唯一の仕事。それも再処理工場建設のいきさつを紹介していたところを編集部の意向でかなりはしょらされた。編集者からゴミ問題にシフトするよう示唆される。

「ゴミったって次元が違うよ、核なんとかは面倒だから死の灰といおう、これはどう処理したって、そりゃ半減期に差はあっても、今問題のPuは二万四千年でようやく放射能が半分になる、ほぼ永久に生活環境の中にとどまるわけだ、家庭から出る生ゴミを放置しといても、せいぜいハエが増えるだけだろ、ハエとかネズミなんてかわいいもんだよ。……俺が死の灰の運び屋だったから、今度は、ゴミを運べっていうのか、君は」
「似てるところもあるなあ、屎尿も含めて輸送が問題だろ、放射性物質のリークに当たるのが臭い、ハエの発生か」
……久しぶりで鬱屈から解放された感じだった……

 登場人物が高畑につぶやく。

……死の灰の運び屋ですって自己紹介した時、素敵だったわ、死の灰を、花咲爺さんみたいに、ぱっぱとふりまいて歩く姿を思い浮かべちゃって。不真面目っていったほうがいいかもね、原発がいけないっていうんならさ、どこか一つぶっとばしちゃうか……でなきゃ気がつかない。ゴミだってそうじゃない、ゴミュニティとか、再生とかってのは興味ないけど、都市が自ら排出するゴミで滅亡するのはとうぜんのことよ、いっぺん東京なら東京をゴミで埋めちゃえばいいのよ、「判るもんならそこではじめて気がつくんじゃない」

 限界の見えている大都会のゴミ処理。担当編集者、農民運動家、革新弱小政党とともに、周辺の休耕農地をゴミ捨て場に、や、ゴミ処理場コンサートやらを考えるがうまくいかない。

……東京の未来を憂え、資源再利用など、甘い気持でいたのでは何事も始まらない、高畑自身、さんざん利用されて捨てられたゴミではないか、ゴミの私怨を晴らせばいい、ゴミを果てしなく産み出す都市に、ゴミの立場から逆襲すればそれでいい、いつまでも飼いならされてはいないゴミ魂をみせてやるべきなのだ。

 礼儀振興協会(右翼)頭目の息子を誘拐、身代金の札束をゴミ袋に入れさせ、あちこちの清掃工場に運ぶ。頭目は金を回収するため清掃局の作業をストップさせるが、ゴミは滞留して、大都会に腐臭が充満。ゴミはさらに……。

■ 『Coyote』 No.47 スイッチ・パブリッシング 1600円+税 
特集 今、野坂昭如
 新井編集長が語る。2010年12月休刊。黒田征太郎から毎日のようにコヨーテの絵が届く。時に言葉を添えて。
――何かっこつけてるんだ。たくさんのページでなくてもいいから、ぺラ一枚から雑誌をはじめろ――
11年5月、新井は門司の黒田を訪ねる。黒田が野坂への思いを語る。
「今、会いに行きたくてしようがない」
「野坂さんに犬みたいに俺はくっついていた」
 その夜、バーで何十枚ものコヨーテを描いた。コヨーテの話、ジャック・ロンドン『火を熾す』(柴田元幸訳)の話、船乗りだった10代の頃の話……。
「野坂さんと海に行きたい……」
 野坂は脳梗塞で倒れリハビリ中。黒田は毎日絵はがきを送っている。
8月、野坂邸訪問。東北を見てほしい、一緒に出かけたいと伝える。野坂は小さく頷いたが、夫人が制した。
「この人が行くということは自分ひとりで行けるというのが最低限の条件です。今の野坂は無力です」
「可能にするために準備しましょう。野坂を使って何が出来るか考えてください」
12月、荒木経惟と共に。
「野坂さんを男前に撮りたい」
目次
ある晴れた日、野坂昭如に会いに行く
書き下ろし 野坂昭如「忘れてはイケナイ物語 福島篇」 絵 黒田征太郎
願い事ひとつ 写真 野村佐紀子  文 新井敏記
野坂昭如からの手紙
ZASSHI 編集者・野坂昭如  語り=長友啓典
「米画」 谷岡ヤスジ×黒田征太郎

他に
山崎努 この本のすすめ  ポール・オースター「君の誕生日は来て、過ぎた」 訳 柴田元幸 など
(平野)
台風一過。みなさん、大丈夫ですか? うちは、春の突風の時に物干しの雨よけが半分飛んで、今回もう半分も行ってしまった。はよ直せ! ということなんですが。