週刊 奥の院 9.28

今週のもっと奥まで〜
■ 石持浅海「待っている間に」 『オール読物』10月号文芸春秋・905円+税)
 ミステリー×官能。大手電気機器メーカーの研究員たちが秘密の業務。軍事産業の一端を担っている。男女ペア3組、どのペアも不倫関係にある。男子研究員・網島が殺害される。国際組織の暗躍か? 本社役員が処理に来るというが……。次は誰が? 田原・沙耶のペアは部屋に籠る。

……
「大丈夫だよ。誰も、沙耶を殺したりなんて、できない」
 言い終えると指先で髪をかき分け、耳たぶをくわえられた。ぞくりとした快感が首筋を走る。 
「別に、殺される理由なんて、ないよ」
 強がりというより、単なる本音だった。しかし田原の回答は素っ気なかった。
「網島だって、そう思ってたかもしれない」
 網島の死に顔を思い出して、身体が硬直する。と同時に、田原が傍らにいることに身体が反応して、芯が熱くなった。内部からの熱が、硬直をほどいていく。そう。自分は大丈夫だ。田原がいてくれるから。
 太い腕が伸びてきた。服の上から左の乳房に触れる。掌を被せるように、ゆっくりと力が加えられた。熱い息を漏らす。
「わたしが殺されるとしたら、田原さんの奥さんにだろうね」
……
「網島さんと瑠美も、同じことしてたのかな」
「そうかもな」
「だったら、瑠美が網島さんを?」
「そんなことわからないよ。瑠美ちゃんが『奥さんと別れて』って網島を脅したんならともかく。いや、それじゃあ、殺されるのは瑠美ちゃんの方だ。瑠美ちゃんが網島を殺す理由なんて、考えつかない」
「田原さんは、奥さんと別れてくれる?」
 わざと、紙に書いたものを読んでいるような口調で言った。
 冗談だとわかってくれたようだ。背後で笑う気配があった。
「別れたら、俺と結婚するのか?」
「しないね」
 あっさりと沙耶は答えた。
「世間から後ろ指指される略奪婚なんて、ごめんだよ。わたしには、もっといい縁談があるはずだから」
……

 第二の犠牲者。役員はまだ来ない。そして……。
(平野)