週刊 奥の院 9.17

■ 益田ミリ 『オレの宇宙はまだまだ遠い』 講談社 1200円+税
 著者はイラストレーター。絵本、コミックエッセイなど著書多数。本書は書店員を主人公にしたコミック。 
 土田くんは32歳独身、書店員歴10年、彼女いない歴6年、影薄いほう、結婚願望けっこうある、“いい人”とよく言われる、人。
ミシュランガイド』を売っているが、「オレ、一生関係ねぇんだろうな」と思う。大手出版社の営業マンとの年収の違いは本の売り上げと同じように人間の順位なのか、基準は何なのか……、レジにいても、棚詰めしていても、いろいろ考えてしまう。
「オレの人生 こんなはずじゃなかった とは思わない でもって こんなもんだろう とも思わない じゃあ、一体 どう思ってんだよオレ!?」 
 失業した同年齢の人がバイトで入社、
「この人よりマシとか思って働いていいわけ? そういうのなんか違わなくね?」 
 その人とレジに一緒にいて、給料日はお客が多いことを話す。入社したての頃を思い出す。
「給料日に本を買いに寄る コツコツと地道に働いている大人が こんなにたくさんいるんだって なんか、すげえいいなあって泣きそうになったんだよな……」
 暗くてウジウジしているように思われるけれど、接客は丁寧だし、フェアや棚のことも考えている。よその本屋にも足を伸ばす。お孫さんを亡くしたお客さんに花を渡したり、本を選んであげる。同僚と本の話もする。わりと冷めて仕事をしている後輩もそれなりに彼の影響を受けてくる。
プライベートでは、伯父さんの見舞いに行く。後輩と合コンに参加する。友人の子どもに絵本をプレゼントする。まわりの人のためにも一生懸命になる。“いい人”だ。
 食事をしていてもやっぱり「人生」を考えている。彼の「人生」とは何だろう。「経済」「恋愛」がうまくいって「結婚」くらいまでは考えている。
どうやら彼女ができたようで、それはそれで悩みもできるが、仕事も忙しくて、
「オレの人生は一回きりで 誰かよりマシな人生とか、そういうんじゃなくて オレ、個人の問題なんだよなあ……」
 伯父さんが亡くなって、最後に読んでいた本をもらう。
 いつもの定食屋でカツカレーを食べている時、ふいに思う。
「人生の意味ってなんだろう って問わなくてもいいんじゃねえか? ……」
 彼女とは順調な様子。だが、番外編を見ると、先行き不安。
 書名は、合コンで撃沈して言ったセリフ。
 本の紹介がストーリーの中に組み込まれていて、著者が本好きであることもよくわかる。
 さて、書店員はこの本を読むのだろうか。本書に限らず、本屋が舞台になっている本や書店に関する本、現場でどれくらい読まれているのだろう。【海】でも、あんまり関心持たれていないような気がする。
(平野)