週刊 奥の院 9.14

今週のもっと奥まで〜
■ 勝目梓 『蝋燭の炎は燃え尽きる寸前に強く赤く揺らぐ』 双葉文庫 571円+税
「老いと性」。年齢などなんのその。元気な男女の6つの話。紹介するのは、Sの美女医に捕らえられた「虐げられる男」より。
 

 獲物はまちがいなく罠にかかる――。
 あたしは確信があった。男ほしさの勝手な思いこみじゃない。絶対の確信。 
 あたしの特殊な趣味にマッチする相手は、簡単にはみつからない。だからたしかにあたしの心と体の中には、いつもはげしい情欲が渦を巻いてる。でも、あたしの直感がにぶってるとは思えない。……
(獲物は同じマンションに住む弁護士。妻は入院中。貫禄十分、銀髪、端整な容貌)
……これほどいたぶりがいのある獲物はそうそう見つかるものじゃない。自信に満ちているにちがいない人格と高いプライドが、若くて美しいあたしの肉体の前でぶざまに崩壊して、哀れな奴隷になるところを想像すると、ぞくぞくする。
(すでに仕掛けはしてある。彼の部屋のインターホーンを押す)
「先週の金曜日の夜ふけのことです。たまたま先生と二人だけでここのエレベーターに乗り合わせました。先生はずいぶん酔っていらっしゃるごようすで、足元がふらついておいででした。エレベーターを降りてからも、まっすぐにお歩きになれないような危なっかしい足取りでしたので、わたくしもご近所の誼(よしみ)で見かねましたものですから、手を添えてさし上げて、ここのドアの前までお連れしましたのよ」
「たしかに先週の金曜日に深酒をしたのは憶えているんだが……、いや、失礼したね、それは……」
「まだ先がありますの。先生はわたくしの肩にかぶさるようにして寄りかかったままで、ズボンの右のポケットにドアの鍵が入ってるから、取り出して開けてくれとおっしゃるので、わたくしがおズボンのポケットに手を入れましたら、先生はポケットの上からわたくしの手をおつかみになって、ご自分の股間に押しつけるということをなさいましたのよ。それだけではありません。そのとき先生は、書類カバンをさげていらした右手の甲で、わたくしのお尻をおさわりになりました」
(「信じられん!」とは言うが、身に覚えがあるから、しどろもどろ)
「わたくしは先生のなさった痴漢行為に、抗議を申しあげるつもりでうかがったのではございませんのよ。誤解なさらないで……」

 誘惑の魔の手に絡みとられて、ついにはS女の虜に。
(平野)すんませ〜ん、メールで送った人たちに。一行上の「虜(とりこ)」が「囮(おとり)」になってま〜す。訂正とお詫び。 
 本の雑誌10月号の特集は国書刊行会の謎と真実!」
 社名の由来、高くて分厚い立派な本、死のロード、社長や編集者はどういう人物か……、多くの謎、そして期待。