週刊 奥の院 9.11

■ なぎら健壱 『町の忘れもの』 ちくま新書 950円+税 
 中日新聞東京新聞連載(2009.7〜11.9)。
 1952年東京銀座生まれ、ミュージシャン、俳優。著書多数あり。
 暇さえあればカメラ抱えて町を歩き回る。東京の下町(近郊も)をめぐって、なくなってもらいたくない物、忘れてはならない物を追いかける。かといって、名所旧跡を求めているのではない。
 

 あたしが書きたいのは、庶民の呼吸が伝わってくる物や景観、すなわち忘れ去られゆく生活の息吹なのである。
 時代は確かに動いている。そう言っているこの間にも変わっていく物、なくなっていく物が沢山ある。それを考えると、おちおちできない。
 しかし町を散策することで発見があった。忘れかけていた物を思い出すことができた。町を見る目が変わった。これは自分の財産であると言ってもいいだろう。
 あたしの中で町歩きはまだ当分続く。それが義務感とまでは言わないが、そうしなければ都会はますます自分の脳裏から離れて行ってしまう。今、見ておかなくては……。

1 失われたものたち
切ない貸本屋 コッペパン 大工のノコ おみくじ機 路上ロウ石画 行水の思い出 ……
2 忘れられた風景
哀れな木 所在ないごみ箱 鳩ポッポは…… 砂場の網 お出かけの記憶 バチが当たりますゾ ……
3 こんな習慣があったっけ……
百度石 骨の天日干し おーい、ワンコよ 白地に赤く 物干し台 キャッチボール ……
4 幻の町をめぐる
消える公共住宅 街道沿いの石碑 季節外れ 老朽化 路地には ……

 かつて町なかに普通に当たり前にあった物。探さないとない、探してもない。時代の先端だった物でも消えてしまう。奇跡的というか、取り残されている物が時折見つかる。そんな物や景色を見つけると、おじさんはいろんなことを思い出す。

(平野)
ハエトリ紙にからまった。いまはやりのムシコナーズ、近所軒並みドアに「玄関用」をぶら下げているが、将来懐かしい物になるのでしょう。
貸本屋で借りっぱなしにして怒られた。
オート三輪の荷台を遊び場にして注意された(怒られた)。
かくれんぼでドブに隠れた(あとで怒られた)。
酒屋でソースを量り売りしてもらう(ビンに垂れたのを舐めさせてくれた)。
バキュームカーが来るたびにクサイクサイと大騒ぎした。……
 「月曜朝礼新刊紹介」は、呑み会のため準備できず次回に。