週刊 奥の院 8.26


■ フリオ・リャマサーレス  木村榮一訳 『無声映画のシーン』 ヴィレッジ・ブックス 2000円+税  
 弁護士、ジャーナリストを経て詩人・小説家。1955年、スペイン北部レオン県ペガミアン村生まれ。幼少から思春期まで過した同県オリェーロスでの記憶を基に創作した短篇集、94年の作品。
 オリェーロスは鉱山の町、90年鉱山閉鎖。

 問うべきは死後に人生があるかどうかではなく、死ぬ前に人生があるかどうかである。
 いつかどこかで、この一文を目にした記憶があるのだが(あるいは、夢の中だったかもしれない。結局同じことだが)、母が死ぬまで大切にしまっていたこれらの写真を眺めているときに、ふたたびその言葉がよみがえってきた。この三十枚の写真には、ぼくの人生の最初の十二年間が集約されている。……父はあの町で学校の教師をしていた。僕はそこで人生についていろいろなことを学び、生と死は時に同じものであるということを知った。……

 古代ローマ人が鉄を残し、19世紀イギリス人がそれを探しにやって来た。彼らが残したのは家財道具のみ。それに「評価不能」と名づけた廃坑と伝説の糸。それらを冒険家や山師が探しに来た。鉱山会社ができ、製鉄所もできるが、15年で閉鎖、鉱山も大企業に吸収される。平和だった村は薄汚く騒々しい町に変わっていた。会社は負債と土ぼこりだけを残して撤退した。

……坑夫たちや、自分の人生はカード賭博に賭けるくらいしかの値打ちしかないと考えている(地の底で命がけの仕事をしているせいで、そうした考えを抱くようになったのだ)彼らの息子たちと一緒に、ぼくは人生で学ぶべきほんとうに大切なことをすべて学んだ。たとえば、問うべきは死後に人生があるかどうかではなく、死ぬ前に人生があるかどうかである、といった言葉がそれで、今またその言葉が記憶によみがえってきた。……
「信用証書が通用する間」

 著者は日本語版の「序」で、東日本大震災被災者を見舞う。
 訳者は神戸外大名誉教授、ラテンアメリカ文学紹介で大きな功績。バルガス=リョサコルタサル、ビラ=マタスなど多数。
(平野)
 私にだって、小さい頃の思い出、あります。幼稚園かその前くらいか、きれいなお姉さんたちに遊んでもらっていた夢みたいな話。文章にするのは難しい。
 NR出版会HP連載 書店員の仕事 特別編 東北発7 これからも「町の書店」として  盛岡の名物書店 さわや書店フェザン店 栗澤さん
http://www006.upp.so-net.ne.jp/Nrs/memorensai_26.html