週刊 奥の院 8.9
■ 大森望+豊粼由美 『文学賞メッタ斬り! ファイナル』 PARCO出版 1600円+税
4年ぶりの「メッタ斬り!」。ラジオやニコ生中継など電波媒体に移行していた。もともとはWEBマガジンで始まったそう。知らんかった。
本書では、道尾秀介・円城塔インタビュー、選評界の帝王・石原の全選評チェック、芥川賞・直木賞全候補作評、受賞結果など、ブランクをぎっしり埋める。
やはり読むべきは「さらば、石原〜!」。芥川賞選考委員勇退を惜しむ(?)。
われわれ以外は慎太郎の悪口言っちゃダメ
悪文は歳とったからじゃない
石原〜を買うと宮本〜がもれなく……
おかしいのはお前の脳みそじゃ
第146回芥川賞の選考過程(円城・田中慎弥受賞時)を再現。本人たちは出席していないので、関係者からの伝聞情報をもとに。
名物企画「選評・選考委員メッタ斬り!」も必読。
そして、ふたりが選ぶ、「メッタ斬り! 大賞」「同 新人賞」発表。
単行本はほんとうにこれが最後らしい。
■ 藤井淑禎 『名作がくれた勇気 戦後読書ブームと日本人』 平凡社 1800円+税
著者は1950年愛知県生まれ。立教大学教授、日本近現代文学・文化研究。
1 戦争/平和もの名作の同時代史 平和主義という大潮流 『武器よさらば』『戦争と平和』『人間の條件』
2 『女の一生』はなぜ『人形の家』に勝てたのか 『ボヴァリー夫人』『アンナ・カレーニナ』『魅せられたる魂』
3 何でも純愛ものにしてしまう時代 『復活』『罪と罰』『狭き門』
4 戦後有効だった子育て法 『次郎物語』『路傍の石』
5 『宮本武蔵』は求道文学などではなかった(!?)
6 名作たちの成績表 ベストセラー統計をどう見るか 頼りになる二つのアンケート――「最近買った書籍」と「良いと思ったもの」
7 戦後最大の「国民文学」は『風と共に去りぬ』
戦後、出版の自由が認められると同時に雑誌の創刊が相次ぎ、出版社も三〇〇社が一気に一〇倍くらいに激増した。紙不足は深刻だったが、作るほうも読むほうも、たとえ粗悪なザラ紙であっても何ら気にすることなく、作り、かつ読んだのだった。……
出版・読書ブームは知的欲求や新しいものへの関心からだけではなかった。平和主義、女性の地位向上・子供尊重、不平等撤廃、自由――戦後民主主義の大きな流れ。ブームは高度成長期にも続く。
長い戦後の読書ブームの時期、「実際に人々がそこから知恵や勇気をもらおうとした本とはどんな本だったのか」。読書で見る戦後史。
(平野)