週刊 奥の院 7.11

■ 塩田武士 『ともにがんばりましょう』 講談社 1500円+税
 三作目。今春神戸新聞社を退職して、筆一本で生きる決意。本書は「労働組合小説」プラス恋愛。
 主人公・武井は大阪の「上方新聞」社会部記者、入社6年目。音楽好きで志望部署は文化部。文化部デスク・寺内は時々クラシック取材を彼に回している。その寺内(組合委員長でもある)が休日の武井を新世界まで追いかけてきた。ジャンジャン横丁で呑みながら……、

「ほんまありがたいと思ってます。いつもクラシック……」 
「言うたで」
「えっ?」
「今、実の両親より感謝してるって言うたで」
「そこまで言うてませんよ」
「嬉しいわ、武井。『木を見て森を見ず』みたいな奴ばっかりの中で、おまえは森、いや、山を見とるがな。……やっと会社全体のことを考えてくれる若獅子が現れたがな。……斜陽産業の代名詞である新聞社を何とかしようという心意気。おまえは幕末の志士や。おい、獅子と志士がええ感じにかかったで」
「酔うてはります?」
「おめでとう、武井教宣部長!」
……

 組合執行部役員に内定していた人が急病で、武井が引っ張り込まれたのだった。しかし、武井には大きな欠点がある。度が過ぎるほどのあがり症。それでも寺内の巧妙な言葉――文化部異動――に動かされ、決断。密約は実行されるのだろうか?
 執行部7人プラス女子1人。対する経営側役員7人。秋年末交渉は、一時金・人員削減・深夜労働手当削減問題。経営側は、一時金「減益のなかでのプラス回答」で、すべてを押し切ろうとする。組合はねばる。

労務重役)「給料が上がるのが当たり前なんて意識は捨ててしまいなさい。深夜労働手当の改定はどの新聞社でもやっているんだよ。時代の流れなんだよ。新聞記者である君が、時勢に疎くてどうするんだよ!」
(寺内)「私は今、新聞記者である前に、労働組合の委員長としてこの場にいます。記者以外の仲間の思いも背負ってるんです」

 寺内は経営側の圧力を押し返し、組合員を説得する。彼らを新聞人として信頼しているから。
 執行部一人ひとりが、経費削減案・新聞人の思いを発言する。あがり症の武井も(声は詰まり、鼓動は暴れ、脚は震え、胃は痙攣)話した。
 双方、どうまとめるのか?
 寺内が組合委員長を続けているのは、自らの誤報事件(不買で販売店廃業)と経費削減による事故(ハイヤー廃止で後輩記者自動車事故)があったから。「プロローグ」と最後にその後輩の話が出てくる。
(平野)
 中居真麻さんのサイン。ご本人の似顔絵、いいです。