月曜朝礼 新刊案内

【文芸】 クマキ
■ 野田道子 『家長・永富杏四郎の憂鬱』 毎日新聞社 1600円+税 
 著者は兵庫県生まれ、これまでは主に児童書を執筆。本書は、戦中・戦後の伊丹市周辺を舞台にした家族小説。
 主人公・杏四郎は新潟県出身、男7人兄弟の4番目。苦学してアメリカ留学。化学床材を開発して、この地に工場を建て成功。伊丹は昔から造り酒屋が栄え、その財力で独特の文化サロンを形成してきた。そういう町では主人公は「成り上がり者」。彼に関するニュースは何でも町中に広がる。その内容は蔑みばかりとは言えず、大方を羨ましがらせるもの。
 その永富家に思わぬ波乱が……。

【芸能】 アカヘル
■ 村上紀史郎(きみお) 『音楽の殿様 徳川頼貞  一五〇〇億円の〈ノーブレス・オブリージュ〉』 藤原書店 
3800円+税 
 頼貞(1892−1954)は紀州徳川家第十六代当主という人。
 梶井基次郎の小説「器楽的幻覚」に「仏蘭西から来た年若い洋琴家」のコンサートが出てくる。豪商で芸術家のパトロンでもあった薩摩治郎八が、1925年に企画した帝国ホテルでのピアノコンサート。そこで梶井が出会った「音楽的に名高い侯爵」が頼貞。当時32歳、ケンブリッジ音楽学を研究、自宅にパイプオルガンを備えたコンサートホールを建設、無料で開放した。音楽図書館には大作曲家の手稿や資料が集められた。長期外遊でヨーロッパの音楽家と親交。資産(現在なら1500億円に相当)を食い潰したと言われる。
 現在、その名はほとんど知られていないし、音楽史にもわずかの記載しかない。著者は破天荒な頼貞の生涯を発掘する。
 著者、1947年東京生れ。「TBS調査情報」編集を経てフリー。著書に、薩摩の評伝『「バロン・サツマ」と呼ばれた男』(同社)など。

【文庫】 
■ マーク・トウェイン 柴田元幸 訳 
トム・ソーヤーの冒険』 新潮文庫
 590円+税
 昨年、柴田が『モンキービジネス』に発表したものを再推敲。
「訳者あとがき」より。
 1830〜40年代の小さな村の出来事――マーク・トウェインの少年時代――だが、完成したのは75年。南北戦争が終わり、都市化・産業化が進んでいた。

急速な発展は時として社会不安をもたらし、七〇年代には、大手鉄道会社の倒産などをきっかけに経済恐慌も生じて……、ごく大まかに言って、時代がより「ややこしい」ものになったと多くの人びとが感じた……。

 物語はまだ「ややこしさ」が訪れていない「質素(シンプル)な日々」「古き良き」共同体を描く。また、「教訓癖や独善的な信心深さが幅を利かせていた時代」「それと結びついた狭量さ」――村人たちの殺人犯とされた男に対する反応と、無実とわかったときの親切ぶりなど――を皮肉を込めて描く。

(戦後という)個別の歴史的文脈に根ざしていながら、十分に普遍的なことがらを描いているところに、『トム・ソーヤーの冒険』という小説が長年、マーク・トウェインの全作品のなかでもっとも読まれてきた理由の一端があるのだろう。


【海事】 ゴットよりお知らせ
7.9 神戸港に過去最大の客船が入港
豪華客船「ボイジャー・オブ・ザ・シーズ 13万7千トン、全長311メートル、乗客3000名。
 各種イベントはこちらを。
http://feel-kobe.jp/news/2012/06/26102042.html
(平野)
 昨日の「岩波書店創業プレ100年」につきまして、お知らせ。
 創業100年記念フェア「読者が選ぶこの一冊」
 岩波書店では「創業100年」を期して、文庫・現代文庫・新書・ジュニア新書・少年文庫から、〈読者が選ぶこの一冊〉アンケートを実施しています。用紙は店頭にあります。ふるって投票をしてください。 
 投票締め切り:9.30 発表:『図書』2013.1月号。
 投票結果をもとに全国の書店で記念フェアを開催します。