週刊 奥の院 6.13

ちくま文庫から
■ つげ義春 『つげ義春の温泉』 780円+税 
 2003年3月カタログハウス出版を大幅に再編集。
 1960年代から70年代に訪れた温泉宿。東北、関東、甲信、九州。兵庫では湯村温泉。つげ撮影写真多数。
 あとがきより。
 

 温泉好きというと、のん気で気楽な身分のように誤解されることがある。けれど私の場合は行楽としての温泉には関心がなく、昔ながらの地味で面白味のない湯治場に惹かれていた。
 そのような偏りは、青くさいことを言うと、なぜかこの現実から逃亡したい思いが無意識に巣喰っていたようで、その不安の癒しを求めて湯治場にこだわっていたのではないかと思う。
 古い湯治場はたいてい貧乏臭く老朽化している。ときには乞食小屋と見まごうボロ宿もある。浴客もみすぼらしく老朽化した老人ばかりで、見た目の印象では“姥捨て”が想像され、その侘しい雰囲気が癒しになるのだった。……

■ 斎藤美奈子 『本の本』 1500円+税 
 著者初の書評集、08年筑摩書房より。94年10月から07年3月まで、新聞・雑誌などに発表した書評および読書エッセイ。
「小説と随筆」「文芸評論と日本語」「本のある生活」「社会評論と歴史」「文化と趣味」にジャンル分け。約700冊の本を紹介。索引含め830ページ。
 解説を自ら書く。

……しかし、まさか自分で自分の本の解説を書く日が来るとは思わなかった。
 じゃあ誰かに頼めばいいじゃないかって?
 まあ、そうなんです。そうなんですが、この物量ですよ。しかも全部が全部、断片的な本の話。これの解説を書けといわれたら、取りつく島がなさすぎて、私でも断るもん。これもひとえに諸姉諸兄の著書を偉そうに論評してきたことのツケ、因果はめぐるというやつであろう。人生、自分の不始末は、結局自分で片をつけるしかないのである。……


■ A.A.ミルン原案 E.H.シェパード絵 高橋早苗訳 
クマのプーさん エチケットブック』
 740円+税  解説 浅生ハルミン
 99年筑摩書房
 名作から生まれたエチケットブック。実生活に役立つかどうか……? 読者次第。
 

 百町森では、とつぜんだれかの家にごきげんうかがいに立ちよっても、まったく問題はありません。ただし、あなたがたずねようとしている友人は、「いるよ」といってくれるかもしれませんし、いってくれないかもしれませんので、念のため。
……
 これといった理由もなく友人をたずねるのはまずいかなと思ったら、「木曜日おめでとうございますにきたよ」といいましょう。
……
 不意にたずねていった先では、なにかひと口つまむ時間であっても、お茶を催促してはいけません。でも、それとなく身ぶりで示す(たとえば、食器棚のほうをちらっと見る)くらいなら、かまわないでしょう。
……

(平野)