週刊 奥の院 5.25

 今週のもっと奥まで〜
■ 阿部牧郎 『われらの再生の日』 講談社 1600円+税
 60代後半の物書き、矢部三郎。取材に行った大阪十三のキャバクラで、孫ほどの娘ゆりあに入れ込む。最後の恋か?

「はじめまして。ゆりあでーす」 
 ならんで腰をおろし、矢部の肩に両手を掛けて顔と顔を向きあわせる。
 やっと顔立ちが判別できるほどの闇の中で正面から見つめあった。おお、と矢部は胸のうちで歓声をあげた。卵形の顔。ととのった目鼻立ち。なによりも若い。こんな場末の店で、こんな愛らしい女の子にめぐりあえるとは、とんでもない幸運である。暗いのでいくらか割り増しされて見えるのだろうが、矢部と顔を突きあわせているのは、去年まで勤務していた短大の撥剌とした女子学生と同じ年代のギャルなのである。
「おどろいたぞ。きみのような可愛い子と十三で出会えるとは」
「そう。気に入ってくれたの。うれしい」
 ゆりあは抱きついてきた。
 矢部はびっくりした。話が早すぎる。北新地の酒場ではありえないことだ。
 さらに矢部は土肝をぬかれた。ゆりあは分厚い白のタオル地のガウンを着ている。一枚きりらしい。肌のぬくもりが伝わってくる。ガウンの下はまさか全裸ではないのだろうが、下着の気配はない。……

 
 引用文だけ読めば、回春官能小説と思われるでしょうが、ちゃいます。
 ゆりあの弟が、矢部を脅したり、パソコンを教えてくれたり、仕事に貢献。しかし、傷害事件を起こす。
 ゆりあはその被害者と結婚話になるが、訳あって失踪。仙台の人と結婚。
 そして、大震災。矢部は弟とともに東北に向かう
(平野)