月曜朝礼 新刊案内
【文芸】 クマキ
■ 川上弘美 『七夜物語』 上・下 朝日新聞出版 (上)1800円+税 (下)1900円+税
著者の本としては「初」づくし。新聞連載(朝日新聞09・9月〜11・5月)、上下2冊の長編、子どもが主人公のファンタジー。
完結までの思いはこちら、美しいお姿とともに。
http://www.asahi.com/culture/news_culture/TKY201105100167.html
お子さんにも読めるようにルビつき、挿絵もたくさん。その絵は、酒井駒子。ブックデザイン、祖父江慎。
小4のさよ、おかあさんと二人暮らし。図書館でであった『七夜物語』という本に導かれて同級生の仄田(ほのだ)くんと夜の世界へ迷い込む。
おかあさんは図書館がきらい(テレビもきらい)。さよは、ないしょで区立図書館に通う。
今読んでいる本を、もうじきさよは読みおえる。お話がおしまいになるのは残念だけれど、次に読む本を、すでにさよは決めている。
さよはその本を、一階のいちばん奥の棚で見つけた。
不思議な棚だった。図書館の棚は、天井の蛍光灯によってこうこうと照らされているはずなのに、なぜだかその棚のあたりだけはうす暗いのだ。
棚に置いてあるのは、さよが見かけたことのない題の本ばかりだった。この中の、ことに古びた一冊に、さよはこわごわ手をのばした。
手をのばしたその瞬間、体の中をびりびりしたものが走りぬけたような気がした。
さよは手を引っこめた。
もしかすると、この棚の本を手に取ってはいけないのではないかと、さよは不安になった。けれど、そこであきらめてしまうのは、くやしかった。
もう一度、さよは手をのばした。……
【文庫】
■ 冲方丁 『天地明察』 上・下 角川文庫 各552円+税
映画、9月15日公開。 http://www.tenchi-meisatsu.jp/index.html
監督 滝田洋二郎 音楽 久石譲 出演 岡田准一 宮崎あおい
映画の宣伝ではなく。そう、2010年の「本屋大賞」受賞作で、この年「吉川英治文学賞」など5賞受賞。
日本独自の暦を作り上げる話。
「碁打ちにして暦法家渋川春海の20年にわたる奮闘・挫折・喜び、そして恋!!」
【人文】と【海事】
■ ノリーン・ジョーンズ 著 北條正司、松吉明子、エバン・クームズ 訳
『北上して松前へ エゾ地に上陸した豪州捕鯨船』 創風社出版(松山市) 2200円+税
著者はオーストラリアの教育者で日本文化研究。著書に『第二の故郷、豪州に渡った日本人先駆者たちの物語』(邦訳、同社)がある。
本書は、捕鯨船「レディロウエナ号」(以下「レ号」、平野勝手に)の船長ボーン・ラッセル(1794〜1880)の航海日誌を読み解く。当時の国際問題・文化交流が記録されている。
1830年11月2日、「レ号」はシドニーを出港。南太平洋の島々で交易をし、クジラを追って太平洋を北上する。
19世紀、西洋諸国の捕鯨は外洋帆船による。出港すると何年も帰らず、水・食糧の補給、甲板での鯨油抽出作業、船の修理など停泊地が必要だった。一方、日本の捕鯨は近海漁業。鯨は日本近辺に到達する前に外国船によって打ち殺されていた。
「レ号」は悪天候に遭い、31年3月31日(天保2.2.18)に北海道南沿岸・浜中湾に。船長は、松前藩の名もアイヌのことも日本の鎖国も知っていた。その禁令が「遭難に直面した船舶に避難場所と食糧を与える国際儀礼に反するものであるとして、強い憤りの念を抱いていた」。
「レ号」乗組員が上陸。土地のアイヌたちとコミュニケーションがとれず、発砲事件・人質や焼き討ちなど紛争を起す。その最中、船長は湾の測量をし、アイヌの生活、和人の軍備など細かく記録した。捕虜にしたアイヌ人とも会話をしようと努めるが、うまくいかない。この地では船の修繕と川の水・薪を入手しただけ。最後は捕虜にささやかな贈り物を持たせて解放している。
本州沿岸に航路をとり、八丈島に。ここでは水と野菜を手に入れた。
日誌には太平洋地域の原住民についての詳細な記述、航海記録、海図製作など、航海史上の功績が認められる。船内で乗組員の反乱があったようだが、その記述はないそう。
捕鯨について、現在西洋はほとんど敵視。オーストラリアは捕鯨を停止。当然日本の捕鯨には嫌悪感を表わす。でもね、極東の民族の「捕鯨文化」にも理解がほしい。
(平野)
20日の訃報。詩人・杉山平一逝去、97歳。 こちらを。
http://sumus.exblog.jp/
◇ 「文藝」別冊、6月の予定に、「いしいひさいち」。