週刊 奥の院 5.16

■ 半藤末利子 『漱石長襦袢』 文春文庫 600円+税
 著者の父は漱石門下・松岡譲、母は漱石長女・筆子。夫は半藤一利。単行本は2009年刊(文藝春秋)。 
1 ロンドンからの手紙
2 漱石長襦袢
3 子規の庭
4 漱石山房の復元
5 呉の海軍基地  (筆子の文章、『夏目漱石の「猫」の娘』掲載)

 カバー写真が「漱石長襦袢」。鮮やかな赤、派手。着物の下に着用する肌着、見えないところの「お洒落」。07年「漱石展」で展示されたのだが、いつの間にか、「女物」漱石「部屋着」にしていた、という説明になっていた。詳細は本文を。
 解説 池内紀 

 祖母鏡子つまり漱石の妻のこと、祖父の友人たちのこと、全国にごまんと文学館があるのに、よりによって「漱石文学館」がないのはどうしてか? 漱石家の入り婿のようにみなされた父のこと、忘れられた作家にちなむ文学賞のこと、「漱石山房」として文学アルバムにきっと掲げられる建物の顛末、夫のお供をした昭和史散歩、手にした雑誌のちょっとした一文……。読後の印象が爽快なのは、一貫して一つのまなざしがあるからだ。どれといわず、やさしくて厳しいリアリストの目につらぬかれている。

 漱石門下生たち、大作家の私生活への批判も。
 
 ちくま文庫「学芸文庫」までは目が届かぬ、手が出ぬ、頭が付いて行かぬ。
■ 今井金吾 『今昔東海道独案内(ひとりあんない)』 ちくま学芸文庫  
東篇 日本橋より浜松 1200円+税
西篇 浜松より京都へ・伊勢参宮街道 1300円+税
 今井金吾(1920〜2010)は東京生まれ。日本経済新聞社札幌支社長などを経て江戸、街道研究。没後、そのコレクションは品川歴史館に寄贈、昨年2月〜4月「江戸の旅へようこそ――今井金吾コレクションの世界」展で一部が披露された。

http://202.216.102.131/hp/page000013400/hpg000013337.htm
 本書の元版は、1974(昭和45)年日本交通公社刊(94年新装版、JTB刊)。 
 今井は72年から観光資源財団の依頼で、東海道五十三次の現状調査を行う。再調査、伊勢参宮道も調査。国土地理院地形図(1/2.5万)に道順を記入し、宝暦2(1752)年の「新板東海道分間絵図」(約1/36300)全図と照らし合わせた。
現行地形図に太い実線で旧東海道ルートが示され、名所旧跡、神社仏閣、石碑まで加えている。江戸時代の道中図も掲載。東海道の歴史、道路・旅館の状況、馬・人足の料金、引用文献の説明から始まる。

日本橋  駄賃・賃銭 荷物一駄・乗掛荷人共九四文 軽尻馬一疋六一文 人足一人四七文
……日本橋は、[武江年表]によると「慶長八年(1603)、この時日本橋はじめて掛らる……」……

(駄賃の「荷物〜94文」は、人が乗って荷も20貫まで可。「軽尻馬(からじり)〜」は、荷物なしの意味だが5貫目まで可。「人足〜」は5貫目までの荷)
 当時の町と道中の様子、弥次喜多の旅を紹介、文献から名所旧跡案内……。出版当時(1970年代)との比較も。
「東篇の解説」今尾恵介、「西篇」金沢正脩。
カバーの絵は歌川広重東海道五十三次」より。
(平野)
 「全国書店新聞」5・15号 
http://www.shoten.co.jp/nisho/bookstore/shinbun/news.asp?news=2012/05/15
 「うみふみ書店日記」もあり。