週刊 奥の院 4.16

ちくま文庫 
■ 山村修 『〈狐〉が選んだ入門書』 760円+税
1 ことばの居ずまい  武藤康史『国語辞典の名語訳』 菊地康人『敬語』 橋本進吉『古代国語の音韻に就いて』 里見紝『文章の話』 堺利彦『文章速達法』
2 古典文芸の道しるべ  藤井貞和『古典の読み方』 萩原朔太郎『恋愛名歌集』 高浜虚子『俳句はかく解しかく味う』 三好達治『詩を読む人のために』
3 歴史の着地  エルンスト・H・コンブリッチ『若い読者のための世界史』 他
4 思想史の組み立て 金子光晴『絶望の精神史』 他
5 美術のインパルス  武者小路穣『改訂増補 日本美術史』 他
私と〈狐〉と読書生活と――あとがきにかえて
 カバー版画 多田順  カバーデザイン&カット 間村俊一 
書目については本書をご覧ください。
 

入門書こそ究極の読みものである――。あるときふと、そう思いはじめました。このごろはそれが確信にまで高まり、人に会うたびに吹聴してみるのですが、たいてい首をかしげられてしまいます。……

 著者は「入門書」と「手引書」を区別する。

「入門書」は、一般の読書人向きで、あくまで平明な文章でつらぬかれた本でなければなりません。しかし、何か高みにあるものをめざすための手助けとして、階段として書かれた本ではありません。……それ自体、一個の作品である。補助としてあるのではなく、その本そのものに、すでに一つの文章世界が自律的に開かれている。思いがけない発見にみち、読書のよろこびにみちている。私が究極の読みものというとき、それはそのような本を指しています。そして、そのようにいえる本が、さがしてみれば、じつは入門書のなかに存外に多いのです。


■ クラフト・エヴィング商會 『らくだこぶ書房 21世紀古書目録』 1000円+税  
写真 坂本真典  カバーデザイン クラフト・エヴィング商會  
単行本は2000年に筑摩より。
 西暦2052年の未来から古書目録が届く。『京都・駱駝こぶ書房製古書目録』。すでにSFの世界です。目録にある未来の古書を注文したら、次々届く。
茶柱の美学と哲学』とか『老アルゴス師と百の眼鏡の物語』など。
そして、1999年12月、注文していないのに『らくだこぶ書房21世紀古書目録』=本書が送られてくる。本書の刊行は2000年12月になっている。実際そうだった。出版された本には、152ページしかないが、未来から送られてきた本にはその先の頁がある。今、手に取っているそのままの写真、手までも写ってている。
真剣に読むと頭が混乱てしまうかもしれません。架空の本の世界を楽しみましょう。
で、その本が今回「文庫」になって、その説明を読むと、また混乱します。

■ 高橋源一郎 『ニッポンの小説  百年の孤独 1100円+税 
目次
プロローグ――ニッポン近代文学百年の孤独  コロンビア大学講義 2002.10.16
その小説はどこにあるのですか?
死んだ人はお経やお祈りを聞くことができますか?
それは、文学ではありません
ちからが足りなくて
エピローグ――補講
解説 川上弘美
「文学界」05年1月号〜06年6月号掲載。07年文藝春秋刊。

……わたしは、およそ二十年前に作家としてデビューしてから、一体、自分はなんのために作家になったのだろう、どういう役割がわたしにあるのだろう、と考え続けてきました。また、同時に、自分が属している「ニッポン文学」という集落に対して、ある違和感を持ち続けてきました。それは、この「ニッポン文学」という集落が、ある没落の過程をたどりつつあるのに、もしかしたら消滅しそうになっているのに、そのことにほとんど誰も気づいていないのではないかということでした。そして、その消滅しつつある「ニッポン文学」の運命はいったいどこからはじまったのかを知りたい、と思い、わたしはひそかに、「ニッポン文学」、正確にいうなら、「ニッポン近代文学」の起源を探る旅をはじめたのです。
 そして、ある日、わたしは気づいたのです。もしかしたら、わたしは、最後のアウレリーノ(マルケス百年の孤独』の最後の子孫、一族の運命が書かれた羊皮紙を解読する)のように、無の中に消え去ろうとしている自らの一族の運命を記述するために、作家になったのではないだろうかと。……


■ 丸谷才一 『快楽としての読書 日本篇』 1000円+税 
カバーデザイン 和田誠  解説 湯川豊  文庫オリジナル
 122冊書評。 “花やかな読書案内”

……現代社会において便利なものと言へば、とかく、電気洗濯機とか電卓とか……ジェット機とか、人工衛星とか、さういふ機械類を思ひ浮かべがちだが、本といふこのすばらしい道具のことをわすれてはならないのである。
……本を買ふためだけに書評を読むとは限らない。本のダイジェストとして書評を読むといふこともある。
……新聞にしろ、雑誌にしろ、なぜ書評を載せるかと言へば、第一の目的は、読者がどういふ本を買ふか、買はないか(借りるか、借りないか)を決めるための資料を提供することである。つまりそれは買物案内だ。
……書評はまづ信頼されなければならない。書評を載せたのが格式が高い新聞雑誌だから信用するとか、あるいは、書評の筆者が知名度の高い偉い人だから真に受けるとか、さういふこともあろう。しかしなんと言つても大事なのは、その書評の書き方の感じだと思ふ。しつかりとした文章、藝のある話、該博な知識、バランスのとれた論理、才気煥発の冗談などを駆使する書評家に接すれば、読者はその記事を疑ふことなどできなくなり、彼が褒めてゐる(あるいはすくなくとも関心を寄せてゐる)その本がぜひ読みたいと思ふに決まつてゐるのである。読んだあとでの感想はまたさまざまかもしれないけれど。……

 小説、和歌、詩から辞典、絵本まで。
(平野)
 本日より、「全国新聞社ふるさとブックフェア」開催。各社の本、順次紹介していきます。