週刊 奥の院 4.7

今週のもっと奥まで〜
■ 夏石鈴子 『わたしのしくみ』 角川書店 1500円+税
 官能小説7篇。 
(帯) こんなにも いやらしくって 愛おしい。わたしだけの“みだらな”しくみ。
紹介するのは「あなたの指で汚してちょうだい」
 動物園サポーター(エサ代支援)で知り合った邦江と誠之。邦江はアトピーに悩み、誠之は自転車修理の仕事で手の汚れを気にしていた。

「わたしは、あなたの指がとても好き。こんな指をしているあなたがとても好きなのです。……あなたの指でね、わたしにして欲しいことがあるの」

 小さい小さい声で言う。このあたたかく暗い部屋には邦江と誠之しかいないというのに、決して他の人には聞かれない声で伝える。
 誠之は、左耳の耳たぶを口に含み、一瞬痛く噛んだ。
「いいよ。何でもしてあげる」
 邦江は自分の右手を伸ばし、誠之の左手にしっかり指を組み合わせて言う。
「本当に?」
「本当に何でもしてあげるからね。だから自分でちゃんと言ってぼくに教えて」
「あにね、あなたのその指でわたしの背中に、薬を塗ってくれる? 自分の手が届かない所で他の誰にも頼めないの」
 一瞬間があった。
「君に、そんな風に薬を塗った人は、他にいないの?」
 誠之は邦江の左側に身を横たえ、左手で邦江の髪を指先で触る。邦江はその手を自分の右手でとらえ、両手ですっぽり包んでしまう。
「そんな人は、いないわ。ずっといなかったし、わたしは一生そういう人には会えないと思っていたの」
「いくら洗っても指が汚い。この指で体に触るなといわれてことがある」
 誠之は、邦江の手の中で自分の手をじっとしたままそう言った。
……

 続きは紙版で。
(平野)