週刊 奥の院 4.1

■ 阿伊染紱美(あいぜんとくみ) 『ざしきぼっこと俺(おんず)  東北の村・まち・世界』 SURE 2500円+税 
〈SURE〉代表は京都と仙台を行ったり来たり。この本のためだったのか?
 著者は、1935年岩手県和賀郡岩崎村(現・北上市)生まれ、画家。実家は「かくし念仏」を信仰。自身は短大入学後、キリスト教者として東北各地を伝道。58年、伝道団を飛び出し東京に。数々の職業、仕事を経験。77年、『わがかくし念仏』(思想の科学社)刊行。90年イギリス移住。中世美術、神話研究。2010年大腸ガン手術。現在も静養中。
 

ざしきぼっことは、可愛い娘っこのことである。このぼっこに会うことは非常に稀であり、またもし会えるならたいへんな幸運が来る。
 たいていは古い農家の座敷に現れるのである。そういう家は地震や大雪に負けぬ頑丈な建物で、現在では少ない。私はそういう古い大きな家に生まれ育った。……
 ざしきぼっこは宗教の御神体とか教祖とか、えらそうなものではない。ただぼうと現れ、身心がしぼんでいる人がいればなぐさめてくれる。皆、会いたがっている。

 東京の住まいにも現れる。

……ある昼過ぎ、四畳半で絵の構図を考えていると、突然に女の子がすっと立ち、「わがねえす(死んでしまいます)よ、気をつけてごじぇすよ」と言った。……「東京さもではるのすかよ」と、私は感動してひとり少し体がふるえたことを思い出す。私の生活状態、特に酒のみをいさめに来たのだった。

 姓「阿伊染」は「かくし念仏」で授かったもの。
「俺」、当地では次男の呼び名。一族の習わしで、身内の葬儀では喪主に代わっての役目がある。兄が亡くなり、三男だった彼が格上げされた。
 蝦夷の末裔を自認。
 

 福島の原発も、俺から言うと、因縁がずーっと、坂上田村麻呂までいくんだよ。そんなに原発が安全なら、都心の北の丸公園につくってもいいんだろ? ソ連ウクライナチェルノブイリ原発をつくったでしょ。それと同じだ。福島なんて、ずっとそうやって因縁が流れてきて、会津の戦争までいってさ。日本の技術があれば、ああいう地震で、なにが危険か、わかるはずだよね。それを、福島だから手を抜いたんだよ。蝦夷地だから。

 蝦夷、「かくし念仏」弾圧の歴史、「ざしきぼっこ」という民俗伝承とそれを実感できる感性、さらに東北の様々な歴史・人間の営みの積み重ね……、
「東北地方の歴史の厚みから、人間たちが紡いできた村・まち・世界の新しい広がりへと、わたしたちをいざなってくれます」 (SURE代表・北沢さん)
(平野)