週刊 奥の院 3.23

今週のもっと奥まで〜
■ 草場安子 『ナポレオン 愛の書簡集』 大修館書店 1900円+税 
 歴史上の有名人はラブレターまで後世に残ってしまう。
 ナポレオンと4人の女性。純真な婚約者、妖艶な妻、純愛の交尾と、名門の姫で2番目の妻。最愛の女性は「妖艶の妻」ジョセフィーヌだろう。二人が出会った時、彼女は6歳年上、離婚歴があり、子どももいたし、革命指導者の愛人だった。ナポレオンは王党派の蜂起を鎮圧した「時の人」。彼の一目惚れ。1795年10月。婚約者のことは忘れ、彼女に求愛。彼女が彼の想いを受け入れたのは12月と、著者は想像する。いわゆる「後朝の手紙」がある。
 

 私は君のことで思いあふれて目が覚めました。君の肖像と昨夜の陶酔が、私の官能に休息のいとまを与えなかったのです。
 やさしくたぐいなきジョセフィーヌよ、あなたはなんという奇妙な力を私に及ぼすのでしょう。あなたが腹を立てたり、寂しそうだったり、心配事がありそうなとき、私の魂は苦しみでくじけてしまいます。そしてあなたの友には心の休息がなくなるのです。しかし、私を支配している深い感情に身を任せ、あなたの唇の上、あなたの胸の上から、私を焼きつくす炎をむさぼっている時ですら、さらに休息はなくなってしまいます。ああ! 昨夜こそ私は気づきました。あなたの肖像画はあなたそのものではないことに!
 君は正午に出発するのですね。三時間のうちには君に会えるのですね。
 それまで、ミオ・ドルチェ・アモーレ(私の優しい恋人)、千の接吻を送ります。私には接吻を送らないでください。君の接吻は私の血を燃え立たせるからです。

 もっと激しい表現もあり。本書をあたられよ。
 著者は、元・在日フランス大使館広報部勤務。
(平野)