週刊 奥の院 3.8

■ 厚香苗(あつ かなえ) 『テキヤ稼業のフォークロア』 青弓社 3000円+税
 1975年東京都墨田区生まれ。慶應義塾立教大学他講師、国立民俗博物館外来研究員。 
 テキヤとか香具師とか、縁日など露店で商いをする人たち。どのような職業なのか。その慣行・伝統など実態をフィールドワーク。
序章  露天のなかへ
第1章 テキヤの社会――集団構造とその維持管理
第2章 一人前の商人になる――名乗り名の継承方法と機能
第3章 縄張りを使う――商圏の運用と地域社会
第4章 備忘録・テイタを読む――記録される祝祭空間
終章  民間伝承の力

 

 隅田川下流の東岸、いまはスカイツリーの開業で賑わう墨東地域は、近世から露天商いの盛んな土地柄で、路上や寺社の境内で商売をしている専業的な露天商は、テキヤ(的屋)といわれている。墨東地域に長く暮らす住民は、そのような露天商のことをただ「テキヤ」というと、なんとなく冷たく呼び捨てにしたような気分になる。だから多くの人はテキヤがいないときでも、会話のなかで敬称をつけて「テキヤさん」という。この「テキヤさん」という語には「伝統的な露天商」というニュアンスがある。だから客に「テキヤさん」と呼びかけられたテキヤは、気分よくその呼びかけに応える。

 イメージは寅さん。
 堅気とは見なされない。墨東地域でも地域住民との距離が広がっている。確かに一部の人に、反社会性や衛生面での問題があるだろう。暴力団排除条例の影響も大きい。

移り変わりやすい世論に存在を揺さぶられ続けるのは、零細な商業を生業とするテキヤの宿命。……
テキヤは不安定な生業を続けていくための慣行をつくりあげ、それらを自分たちの「伝統」として大切にしてきた。親分子分関係や縄張りをつくる慣行なども、商いを安定させるために有効に機能している。……

 貧民救済活動もした。
「いわゆる侠気、テキヤの言葉で言えば『神農道』に従った行動である」 
テキヤが消滅しても、誰かの生活にダメージはない。本書が社会に与える影響もないかもしれない」
「何だかわけのわからないもの」ではない彼らの「伝統」を検証する。
(平野)