週刊 奥の院 3.5
■ 鶴見俊輔 『日本人は状況から何をまなぶか』 SURE 2000円+税
第1章 親指のものさしで世界をはかる 複数の自我 倫理への道 国民というかたまりに埋めこまれて
第2章 退行から始める なれなかったもの 日本人は状況から何をまなぶか おはなしの必要 たっぱのある人 呼び覚まされた記憶――「井上ひさし」という不在
第3章 学校の外 桑原武夫学芸賞選評 降る雪の形――中谷宇吉郎の文体 仲間とともに学んだひと――上野千鶴子の軌跡 学校の外
第4章 倒叙 思想の科学私史 鈴木金雪と「二流の会」 除名のない集まり 大阪グループの足立巻一 茅辺かのうの北海道行き 脱走に始まる
九十歳に近く、私は終りに向かっている。まだ、自分の文章を読むことができるので、後期文集を編むことにした。……
一語一語を噛みしめたい。
表題の文章は、ロシア革命から逃れたユダヤ人思想家アイザイヤ・バーリンの難民の思想、中国・韓国との関係で日本思想史をとらえた内藤湖南などを例に、3・11以後の論調を近代教育(○×式答案)の欠点とみる。
「日本人の上に落とされた核爆弾に対して、私たちは応答しないで過ぎてきた。その空白の時間に、今回の地震、津波、核炉破壊が起こった」
三月一一日からテレビを見続けた。地震と津波と原子炉破壊の報せが刻々と入ってくる。私の中に、それらが積み重なってゆき、全体の形をつくらない。
(専門家の言葉は、しろうとには、その重さが伝わらない。新聞や雑誌は首相を批判し、言葉尻をとらえてきれぎれに攻撃する。)
もっと大きな形、その中に出来事をとらえる形に出会いたい。……
私たちは時間を薄切りにしてとらえる習慣に慣れてしまった。……
(内藤湖南の思想に従い)今の日本が応仁の乱以来続いているものとすれば、能狂言の身ぶりに戻り、近隣の助け合いと物々交換から再出発に向かいたい。文明の難民として日本人がここにいることを自覚して、文明そのものに、一声かける方向に転じたい。
(平野)