週刊 奥の院 2.26

■ ジャン・フェクサス著 大塚宏子訳 
『図説 尻叩きの文化史』 原書房
 3200円+税 
まえがき 尻叩きと鞭打ち
第1章  幼児期から……  尻叩きが君臨していたとき モンテーニュは尻叩きに断固反対 ルソーの尻叩き 尻叩きは世界の悪の根源か? 他
第2章  ……放埓まで  一八世紀の狂気的な尻叩き 下級仕官は熱烈な愛好家 様々な叩き方と応える叫び 他
第3章  修道院  宗教上の鞭打ち 鞭打ちは肩から尻へ下がって神聖さを失った 鞭打ちで自分の動物的な部分を目覚めさせる神父 他
第4章  医師のもとで  あらゆる効力?  腰の悲運 結果として生じる喜びにご用心 他
第5章  街角で  白昼の裁き サドが愛した女闘士の尻叩き 中国では受刑者が執行人にお礼を言う 他
第6章  シンボル  教育の問題 婦人警官 他
第7章  そして今は?  最新の流行、最新の叫び 本物の尻叩き人はもはやいないのか 尻叩きコンクール 尻叩きはどこへ行くのか 他
(まえがき)より。
 尻叩きの語源は諸説。フランス語のfesser(尻を叩く)はfesse(尻)からきたというのが普通。ワロン語(ベルギー)のfessi(ヤナギを絡み合わせたもの)説、古ワロン語fesse(板)説、ドイツ語fitzen(鞭で打つ)説もある。
 尻叩きは、古くから教育的体罰
与える被害は少ないが、痛みはある、時には人前で尻を出す恥辱も。そして、想像のとおり性愛の行為にも。……
 叩かれるものと叩く道具、うまくできている。
(訳者のあとがき)より。
 尻叩きといえば、日本では幼い子どもに「お尻ペンペン」。欧米では古代から現代まで、家庭・学校・修道院・娼家・刑場、さらに医院でも、連綿と続けられてきた行為。躾のため、懲罰のため、性的喜びのため、支配のため、性的機能改善のためと多様。素手、鞭、木ベラ、ステッキ、枝などを使う。

尻叩きは人間の歴史のさまざまな側面に、ずっとついて回ってきたというわけだ。尻叩きという一つの行為からこれほど広い世界が広がるとは驚きである。

 日本語の「尻を叩く」には、励ましたり催促したりの意味がある。福岡県春日市では嫁の多産を願う「嫁ごの尻たたき」という風習が残っているそう。奈良県飛鳥坐神社には天狗や牛に扮して参拝者の尻を竹で叩くという厄除け神事がある。……

 それにしても、本書に掲載されている「尻叩き」図版の豊富さに驚く。まさに「尻叩き文化」。尻叩きの見世物があって、その絵はがきも。
 著者は、弁護士、イラストレーター、警視長という職歴。そして文化史研究。著書に『うんち大全』『おなら大全』『でぶ大全』(邦訳はいずれも作品社)。
 訳者には、『図説 愛の歴史』『図説 毛全書』(原書房)。
 ゴールデンコンビではないか。
(平野)