週刊 奥の院 2.20

■ 川端康雄編 『小野二郎 ウィリアム・モリス通信』 みすず書房 大人の本棚 2800円+税 
 ウイリアム・モリス(1834−96)はイギリスの詩人・装飾芸術家・社会主義思想家。
 小野(1929−82)は、60年に中村勝哉晶文社を創業した編集者でモリス研究家。71年から明治大学教授。モリスゆかりの土地を訪れて綴った紀行集。
『自然への冠  ウィリアム・モリスにとっての「装飾芸術」』
ウィリアム・モリスと世紀末  社会主義者オスカア・ワイルド』
など全17編。
『自然への冠』より。

(1881年の講演でイングランド西部の山地コッツウォールドにふれて)
……芸術の本当の意味は、自然に対する人間の尊厳の表現である。つまり自然への冠であり、この大地で人間が生きているということそのものである。日毎に醜い建物でこの地表を汚している現在、この芸術の原義を再確認しなければならない。地表に人間が棲む以上、自然を変形し加工する。その変形、加工そのものの拒否が自然への尊厳ではない。変形、加工が自然への冠にならねばならないのだ。モリスがここでいっているのは、むろん人工と自然との調和などではないだろう。新しい自然への冠と古い自然への冠との豊かな出会いということだろう。ともあれ、そういう出会いがイギリスのところどころにまだあるといって、コッツウォールドの名があがっていたのであった。……

(平野)