週刊 奥の院 2.11

■ 木村直樹『〈通訳〉たちの幕末維新』 吉川弘文館 2800円+税
 1971年東京都生まれ、東大史料編纂所助教
 鎖国政策により、外国人の往来は厳しく管理されていた。しかし、長崎出島に来たのはオランダ人だけではない。 

……有名な医師であり、学者であるケンペルや、シーボルトはドイツ人(当時はドイツという国はなかったが)、トゥーンベリはスウェーデン人であった。
 また、オランダから日本への貿易船の派遣が困難になった十九世紀初頭には、チャーター船としてアメリカ船やデンマーク船が来航しており、さまざまな国の人たちが来日していた。

「通訳」という職業はなかった。「通詞(つうじ)」という集団がいた。長崎で採用された地役人。長崎には最大1800人ほどの地役人がいて、町人であり、学者、医者であり、貿易に携わり、翻訳やら、諸藩の蔵屋敷の仕事をする者も。
オランダ通詞の他、唐通事――中国語や東南アジアの言語専門家――もいた。
第1章 オランダ通詞とは  オランダ通詞の始まり ポルトガル語を話す通詞 通詞たちの職階、職務 他
第2章 政治に翻弄される通詞  寛政改革と通詞 通詞の復権 多言語化する通詞 幕府天文方とオランダ通詞 シーボルト事件 他
第3章 ペリー来航と通詞  日米和親条約 安政二年のライバル 安政以降の長崎のオランダ通詞 唐通事の英語通訳
第4章 幕末の通詞  幕臣西吉十郎 蕃所調所と通詞 箱館の通詞 神奈川の通詞 維新後の通詞たち 他
オランダ通詞からみた近世――エピローグ
 江戸時代、日本と海外が関わる場所が長崎以外にもあった。対馬と朝鮮、薩摩と琉球松前蝦夷地。
 鎖国とはいえ、「異なる文化を持った人々同士が、多彩な関係を結んでいた」し、漂流民保護、密貿易もあった。藩によっては、異言語を話す人々に対処するための専門家がいた。
 本書では、「オランダ通詞」に焦点を置く。江戸時代終焉という時、オランダ語だけでは通用しなくなった通詞たちの姿と異文化接触の変化を考える。
 目次に名のある「西吉十郎(にし・きちじゅうろう)は長崎通詞から語学の才能によって幕臣になり、明治元年には大坂外国奉行支配組頭。静岡藩薩摩藩でも働き、明治4年に司法省出仕。のちに大審院長(最高裁判所長官)になった。カバーの左の人物。右は森山多吉郎、ペリー来航時の通詞主席。
(平野)
 たいへんうれしく光栄なことです。『ほんまに』第14号、名古屋ちくさ正文館書店さんからご注文いただきました。ありがとうございます。

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