週刊 奥の院 2.10
■ 鹿島茂 『とは知らなんだ』 幻戯書房 2400円+税
『オール讀物』連載文化史エッセイ。長期連載で、05年までのものは単行本・文庫に。
ひげは自然か文明か。
名古屋城のシャチホコとヨーロッパのドーファン(イルカ)像について。
インドリンゴはなぜ姿を消したのか。
クルトンとスープの薀蓄。……
本棚の並べ方について。
06年、書庫兼仕事場を同じビルの20坪の部屋に移動。窓を全部つぶして本棚を並べ、部屋の真ん中にも本棚を背中合わせにして2列。
部屋の真ん中に座ってぐるりと見まわすと、四方の壁はすべて一杯に本のつまった書棚で占められている状態。その結果、部屋は、わずかに本の隙間から差し込む「木漏れ日」ならぬ「本漏れ日」以外は、完全な暗室に近くなり……。
本が断熱材代わりになったが、万一火災でも起きれば、著者の身体は「本の包み焼き」になる。
で、配置をすべて壁に対して直角にする「ストールシステム」=回廊型書庫に。そこから、書物の起源・本棚の歴史を語りだす。
でもね、棚をどう配置しようが、本はどんどん増えていくのでありました。
他に、未亡人が赤面した銅像、ピンク色はいつからエロか、などなど性愛文化が多く取り上げられ、私は満足。
◇ 今週のもっと奥まで〜
■ 神崎京介、睦月影郎、草凪優、坂井希久子、霧原一輝、うかみ綾乃、小玉二三
『七つの熟れた蕾』 新潮文庫 490円+税
官能アンソロジー、新潮社がつけたキャッチ“官能小説の「神7(カミセブン)」” 。
紹介するのは、神崎「アイドルさん」。
以前の不倫相手沙織としばらくぶりに会う。離婚するという。
……イヤな感じがした。不愉快でもあった。女の狡さがそこかしこに隠されている気がしてならなかったが、38歳の川村にはその正体が摑み切れなかった。
人並みに対人関係で苦労してきたし、ある程度の社会経験はあるが、女性とのつきあいが少ないまま結婚して今に至る川村には、沙織の思惑を読み取るだけの経験も想像力も足りなかった。
ところが、バスルームを出る頃には、イヤな感じも不快感も、どうでもよくなっていた。
小さな部屋に戻ると、沙織をキングサイズのベッドに押し倒した。今必要なことは会話ではない。……
(平野)