週刊 奥の院 1.20

今週のもっと奥まで〜
■ 白石一文 『幻影の星』 文藝春秋 1350円+税 
 酒造メーカーに勤める熊沢武夫。6月のある日、諫早の母親から妙な電話。武夫のコートが河原で見つかったと。諫早にはしばらく帰っていないし、コートは手元にある。そのコートが送られてくる。自分のものとまったく同じ、ネームもある。ポケットにデジカメのSDカード。復元してみると未来(7.18)の映像。
 諫早の滝井るり子のケータイも河原で発見され届けられる。自分のケータイはある。やはり(7.18)の映像。
 ふたりは小学校の同級生だが、親しかったわけでもない。話をしたことはある。おぼろげな記憶が蘇ってくる。
 7.18 ふたりは河原で出会う。
 東日本大震災後の不安の中、生と死、時間、自然の摂理、記憶と体験……さまざま考える。この世の出来事は幻影なのか? SF仕立ての哲学小説。
 当欄は、小説のテーマと無関係のアッチ方面に着目する。二人、それぞれの恋人・愛人との性はノーマルとは言えない。武夫は会社の先輩堀江さんとソーニューなしの性。ふたりで温泉の場面。
 

 二度目の入浴を済ませて戻ると、先に帰っていた堀江さんがドライヤーで髪を乾かしている。……
 僕の方を振り向き、堀江さんは手招きした。そばに寄ると風の出ているドライヤーを手渡してくる。「このへんに当てて」と首のあたりを指さした。長い黒髪を両手で持ち上げ、大きく開いた浴衣の後ろ襟から真っ白な項をのぞかせる。そこへドライヤーを向ける。髪がなびいて舞い上がり、浴衣がふくらんで背中まで温風が吹き込んでいく。堀江さんの身体はしっとりと潤いを帯びている。……


(平野)
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