週刊 奥の院 1.11

■ 中野美代子 『塔里木(タリム)秘教考』 飛鳥新社 2500円+税

 北海道大学名誉教授、「西遊記」研究で著名。
塔里木」は中国新疆ウイグル自治区南部の盆地。
「秘教」とは、マニ教。その教祖の預言を題材にした小説。
(帯) 
 たび重なる原爆実験とウイグル族弾圧!  現代中国の現実に影を落とす、謎の古写本の正体とは?

 著者、構想から30有余年かけた作品

《……魔界ノ水ハ劫火ヲ生ジ、明界ノ水ヲ得テ纔(ハジ)メテコノ世ノ水トナル》
「なに? 水から火が出るだと? おかしいじゃないか。水は火を消すものだ」
 するとマニ僧は、その巻子本をくるくると巻きもどし、すこし怒気を帯びた声で、
「魔界の水だからだ。教祖のお言葉を疑うなら、おまえも劫火に焼かれるぞ」
…… 

 油田採掘? 原水爆実験? 辺境の民族の被害? 
古代の写本を偽造してまで告発しなければならない事実がある。
【跋】より。
 

 ソグド語はもちろん、ウイグル語でもマニ教にもしろうとの作者が閲した書籍はおびただしいが、最大の参考資料は、年代別の『中国地図集』であろう。わけても『新疆維吾爾自治区地図帳』(二〇〇九)は、現代中国のウイグル政策の生の資料となる。……

 1980年楼蘭遺址でひとりの生化学者が行方不明になる。四次にわたって大捜索が行われる。05年、遠い敦煌の砂漠で遺体が発見された。その記録から大きな影響を受けた。
(平野)