週刊 奥の院 1.5

■ 古川日出男 『春の先の春へ 震災への鎮魂歌  宮澤賢治「春の修羅」をよむ』 左右社 1400円+税 
 朗読CD付き。 
 古川は1966年福島県郡山市生まれ。91年より舞台演出。98年作家デビュー。日本推理作家協会賞、SF大賞他、2006年『LOVE』で三島由紀夫賞
 

 その三月に震災が起き、僕はひと月かふた月か、さまざまな文章が読めずにいました。しかし、それでも数人の文学者の、わずかな数の本は読めた。そうした本のことを考えつづけています。そこには宮澤賢治がいました。俯いている、歩いている、考えている、歯噛みしている。そうです、宮澤賢治は歩きつづけていた、しかし僕もまた、歩きつづけて(その「歩く」という姿勢から)書きつづけてきた気がします。……

 宮澤賢治春と修羅』より
 永訣の朝
 無声慟哭
 報告
 青森挽歌
 春と修羅

 古川は朗読を続けてきたが、震災が起きて、「賢治を読む」意味が根底から変わった、と言う。ステージで朗読する時は朗読者である古川と声が不可分だが、CDでは古川の姿を積極的に消さねばならない。
「そこに立ち現れるのは、賢治の、文学だけだ」
僕は、感情を息にできた。祈りを、息に変えられた

……古川は福島の子だ。彼が知る土地が、人々が、動物たちが、傷つけられ、苦しんでいる。傷つけられ、苦しんでいる。古川が感じているに違いない動揺、さらされているに違いない苦境は、彼の身体の周囲に独特な振動を、反響空間のようなものを、作り出していた。その痛みをぼくは感じた。……管啓次郎

……今回、古川が詠んだのは宮澤賢治です。「永訣の朝」には、(あめゆじゆとてちてけんじや)という部分があります。意味としては、「あめゆきをとってきてください」という、今日のうちにでも死んでしまうかもしれない妹・とし子の哀願です。この部分を彼は、あめ・ゆき、あるいは血のようなものが、ぽたりぽたりと落ちていく、そんな速度で間を空けて詠んでいます。ぽたりぽたり、聴く者のなかにも、その音が落ちていきます。最初は音、次に意味、そして最後にまた意味が音に還元され、ぽたりぽたり。……小池昌代

(平野)