週刊 奥の院 12.18
■ 菅野匡夫 『短歌で読む昭和感情史 日本人は戦争をどう生きたのか』 平凡社新書 800円+税
1937年生まれ、詩人。元講談社編集者。『昭和萬葉集』(全21巻・1979〜80)を担当した。昭和の短歌4万5千首を年代順・テーマ別にまとめ、昭和史を綴った。鶴見和子が完結感謝の会で、「この本によって感情史(の可能性)が誕生した」と挨拶した。
本書は、30年経って、鶴見への「最初のリポート」。
カバー(そで)の文章から。
あの戦争の時代は、短歌の時代でもあった。
夫を戦地へ送る〈せつなさ〉、
故郷の妻や子への〈いとおしさ〉、
戦局や生活のなかでの〈よろこび〉、そして〈いかり〉――。
多くの人々が、心のつぶやきを、叫びを、
短歌に託し、現代の私たちに残してくれた。
目次
序章 短歌の時代
第一章 一九四一年十二月八日
第二章 真珠湾空爆とマレー進攻
第三章 憂鬱なる時代の幕開き
第四章 戦場と銃後の生活
第五章 玉砕と大空襲
第六章 原子爆弾と御前会議
第七章 一九四五年八月十五日
第四章の「兵隊となる日」からいくつか。
召集令状を受け取って部隊に入るまで48時間から72時間だったそうだ。身辺整理、挨拶回り……、別れ。若者、家族の「絶唱」。
奉公袋一つにまとまりし清(すが)しさに 下帯かへて吾は寝むとす
夫(つま)とのる最後とならん夜の汽車に 温かき牛乳わけてのみたり
さがし物ありと誘ひ夜の蔵に 明日征く夫(つま)は吾を抱きしむ……
戦争が終わっても、人々は悲しみ・苦難に耐える。
第七章「老夫婦の会話」
あなたは勝つものとおもつてゐましたか と老いたる妻のさびしげにいふ
戦争の時代は終った。暗黒の時代は去った。人々は、腰が抜けたような虚脱感の中でそれでもかすかな光を感じていたにちがいない。しかし、現実には、さらに過酷な飢餓と混乱の時代「戦後」が始まろうとしていた。
そして、戦後もまた「短歌の時代」なのである。
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(平野)