週刊 奥の院 12.11

■ 花森安治戯文集3 [暮しの眼鏡]ほか』 LLPブックエンド 2500円+税
 シリーズ完結。 
 解説津野海太郎
 本シリーズ、戦後十数年間の文章や記事なども掲載されているが、これらは長く単行本に収録されずにいたもの。当時、花森は「評論家」稼業をやめて『暮しの手帖』編集に専念し、事実上、ほかの出版社やジャーナリズムとは縁を切っていた。かなりの文章が発表されたままになっていた。そういう文章を、このたび版元の編集者が各地の図書館・古書店で拾いあつめてまとめた。「地を這うような努力」と賞賛する。
 花森は創刊当初、数多くの文章を書いていた。経済的に苦しい状態で、社員たちは雑誌をリュックに詰めて本屋を回っていた。津野の想像だが、「花森はじぶんを売り、稼げるだけ稼いで、その上がりのかなりの部分を雑誌にまわしていた。女装とか戯文とか、かれのメディアへのサービスには、そういう面も大いにあったのだろう。……」 
 本書の中心[暮しの眼鏡]について。
 花森はさまざまな家庭内労働について具体的に問題点をあげる。ガス・ストーブの栓の人間工学的問題点、料理教室批判(しゃれた西洋風料理より日常食の基本のくずれを指摘)など。

(ピント外れのこともあったが)経験不足は承知のうえで、すすんで「家常茶飯」の領域に踏み込み、そこから、使うものの都合を無視した商品や、つくる人間の表現欲だけに奉仕するデザイン(衣服や住宅設計)、さらにいえば人間をおきざりにしてすすんでゆく技術への批判まで、すべてを実地に即して、しかも見て楽しく効果的なしかたで発言しつづけた。その度胸と見識は大したものだと思いますね。
 花森安治がいてよかった。……

(平野)
◇ ヨソサマのイベント
■ 川柳作家・三條東洋樹(とよき)展 2012.1.14〜3.4 神戸文学館 
 078−882−2028 水曜休館
 本名・正治(1906〜83)。元町4丁目、木炭問屋の生まれ。神戸小学校から県立神戸商業。15歳から川柳を始める。