週刊 奥の院 12.8

■ 長田弘 『詩の樹の下で』 みすず書房 1800円+税 
 本書のモチーフは、「樹や林、森や山の重なる風景に囲まれて育った幼少期の記憶」
 詩人の記憶とは、昭和の戦争と戦後。詩人の感性・精神の土壌をつくったのは、「緑なす風景のなかに過ごした少年の記憶」だった。そして、本書は、「幸福の再確認の書」となるはずだった。
 今春、体調を崩して入院、手術前に一旦帰宅したその日に、大震災に襲われた。被災地の惨状が伝えられるなか再入院、長時間の手術、集中治療室……。
「生死の関頭を脱し、思い知ったのは、(大震災がひろげた津波原発爆発)無涯の感じ、異様な寂寞……」 
 詩人は福島の生まれ。

……被害を受けた福島の土地の名一つ一つは、わたしの幼少期の記憶に強く結びついている。幼少期の記憶は、「初めて」という無垢の経験が刻まれている、いわば記憶の森だ。その記憶の森の木がことごとくばさっと薙ぎ倒されていったかのようだった。……

『夜と空と雲と蛙』で福島ゆかりの文学者たちに問いかける。

……露伴さん、露伴さん、幸田の露伴さん。風吹く野辺で、あなたはそのとき、二本松の夜空に、何を見たのですか。北斗七星と何を話したのですか。いま、二〇一一年、二本松の夜空は、あなたの見た夜空とは違いますか、ずっともっと無明の空ですか。
高村光太郎山村暮鳥、それから)
……心平さん、心平さん、草野の心平さん。地球とはあきれたことのあふれる場所だと、あなたはいつか慄然と笑って言いましたよね。あなたはいまどこから眺めていますか、あなたのいない地球を。慄然と笑うほかない地球という星を。

(平野)
『ほんまに』販売協力をしてくださっているNRくららさんから追加の連絡。調子に乗って、いらんもんまで送りつけているので、関係者の皆さん、手分けして持って帰ってください。以上、業務連絡。