週刊 奥の院 11.24

■ 上田康介 著  小佐田定雄 監修
桂吉朝夢ばなし 吉朝庵』 淡交社 
2500円+税
 七回忌。
 付録に落語2本入りCD。
 著者は吉朝さんの長男、82年生まれ、カメラマン。吉朝さんとご縁のあった人たちに話を訊いてまわった。家庭の父の顔(大変おもろい親父)ではない「顔」が歴史を重ねていっぱい。
 最後の高座は平成17年7月27日、国立文楽劇場。噺は「弱法師」。
 

 
 一時ごろ、私は自転車でホスピスに向かった。部屋に入ると親父はベッドの上で髭を剃っていた。少し緊張しているように見えた。……
(観客席から友人の太夫が「グレイト吉朝ォ!」と威勢の良い掛け声を)
……親父は必ず返答する。
「え〜、ありがとうございます」
 やはり声はかすれている。こんな状態で落語なんかできるのだろうか。
「声も出にくくなってますんで、客席からあまりええ声をかけていただきませんよう、お願いいたします」
(40数分の高座。万来の拍手に送られる。アンコールはない、できない。車椅子に乗っている)
 弟子たちに言う。
「また(おれが)出る思うとんねん(笑い)」

 同年11月8日逝去。
 吉朝さんの名を知ったのは、中島らものエッセイ。劇団リリパットアーミーによく出演していて、ネタにされていた。私は、だから、らも系(深い意味なし、底抜けにおもろい人)なんだろうと思っていた。
 本書で、やっぱりそうやったんや! 納得した。
 (平野)談志さん、亡くなって回文になる。ご冥福を……。