週刊 奥の院 11.16
◇文庫
■ 大竹聡 『酒呑まれ』 ちくま文庫 840円+税
なぎら健壱さんが「酒飲まれ」と呼ぶその人は『酒とつまみ』編集長=著者。
著者曰く
はっきりとこう書いていただいて校正刷りを見たとき、確かにその通りだと膝を打った。……
その頃の私はほぼ十年にわたって酒にまつわることを書いていたが、思い返すとその半分以上、いや、七、八割は、飲んでやらかした手痛い失敗談だった。
「呑」の字にしたのは、「飲んでも飲まれるな」という鉄則よりも、飲まれてなお楽しく、ときに哀しく、思い出深い酒もある、「呑」のほうが、丸呑みされる感じが強いから、と。
解説は石田千さん、やっぱり! 表紙は南伸坊さん。
なぎらさんも、ちくま文庫で『東京路地裏暮景色』同時刊行。
■ 富岡多惠子編 『大阪文学名作選』 講談社文芸文庫 1400円+税
わが町(抄) 阪田寛夫
浣腸とマリア 野坂昭如
みち潮 河野多惠子
相客 庄野潤三
船場狂い 山崎豊子
木の都 織田作之助
他 小野十三郎、武田麟太郎、宇野浩二、折口信夫、川端康成。
『木の都』より。
大阪は木のない都といわれるが、織田の記憶は木と結びついている。広い平野だが、上町という高台がある。高津宮の跡がある。社寺の木、坂の木、上町台地から見ると「鬱蒼たる緑の色」があった。
「上町」だが、雰囲気は下町、坂の多い路地の町。織田は久しぶりに町を歩く。
……下駄屋の隣に薬屋があった。薬屋の隣に風呂屋があった。風呂屋の隣に床屋があった。床屋の隣に仏壇屋があった。仏壇屋の隣に桶屋があった。桶屋の隣に標札屋があった。標札屋の隣に……(と見て行って、私はおやと思った)本屋はもうなかったのである。
善書堂という本屋があった。「少年倶楽部」や「蟻の塔」を愛読し、熱心なその投書家であった私は、それらの雑誌の発売日が近づくと、私の応募した笑話が活字になっているかどうかをたしかめるために、日に二度も三度もその本屋へ足を運んだものである。……
その善書堂が今はもうなくなっているのである。
……つらい。
(平野)全国書店新聞11.15号 「うみふみ書店日記」アップ。
http://www.shoten.co.jp/nisho/bookstore/shinbun/view.asp?PageViewNo=8729