月曜朝礼 新刊紹介
【文芸】クマキ
■ 柴田元幸責任編集 『モンキービジネス』 vol.15 最終号 ヴィレッジブックス 1600円+税
マーク・トウェイン『トム・ソーヤーの冒険』 柴田新訳
ニコルソン・ベイカー K590 岸本佐知子訳
川上弘美 埋め部
浅尾大輔 猫寿司真鶴本店
小野正嗣 キーボーとフーヤン
岸本佐知子 七月一日テツ子
高野文子 ウェイクフィールド
古川日出男 ロックンロール十四部作 8 他
柴田元幸さんが新訳を発表し、編集してきた文芸誌。3年半の幕を閉じる。
この形での『モンキービジネス』はひとまず終わりですが、わりとしつこい性格みたいで、また別の形での復活を早くも夢想・構想・画策しています。マッカーサー元帥は「老兵は消え去るのみ」「アイ・シャル・リターン」という二つの言葉を残しましたが、猿は去るのか戻るのか。
……
「なんで最終号が『トム・ソーヤー』なんだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、べつに深い意味はありません。なんか、最終号にふさわしくないことをやりたかったので。当たり前ですがいつものとおり全力で訳しました。
■ 短歌 平岡あみ 解説 穂村弘 絵 宇野亜喜良
『ともだちは実はひとりだけなんです』 ビリケン出版 1600円+税
平岡あみ、1994年ニューヨーク生まれ。6歳から詩を雑誌・新聞に投稿。本書は12歳からの短歌。本を開いたとたん「我が家は複雑なので」。
父はいない生きているけど父はいないうそなんだけど父はいない
家庭の事情。
荻窪の空手道場の前で今週もまた父は待ち伏せ
駅前の二階のパスタ屋さんに行く父がこんなとこ知っているとは
捨てられた妻と捨てられた娘が父親のことでまたけんかする
12歳の少女の歌、読むのは辛いです。
専門家の解説者は違います。
(複雑な事情が)独特の言葉の魅力を生み出している。
……
何年も離れていると父親を殺せるのではと思ってしまう
どきっとする。こんな鋭い刃を心に秘めつつ、その一方で、娘は「父」を気遣う優しさを持つことができる。
焼鳥屋父と行くならいいんじゃない何本かわたしがつきあうからさ
反射的に「いい女」という言葉が浮かんだ。この娘は十代の前半にして既に「いい女」なんじゃないか。そのことの悲しみっていうのもあると思うけど。
未来の我が子のことを思う歌もあります。泣けてきます。
【雑誌】 アカヘル
■ DECO・CHAT(デコ・シャ)vol.1 旅と本のコラム deco社 667円+税
http://halfmoonstreet125.cocolog-nifty.com/
旅と本がテーマ、京都の中務秀子さんが個人編集。名うての本好きがズラリ、といっても私が名を知る人は7名くらいです。でも、「ゆうさん」発見。それだけで幸せな気分。
【辞書】
■ 大野晋 編 『古典基礎語辞典 日本語の成り立ちを知る』 角川学芸出版 6500円+税
大野さんの「序」より。
日本人は春爛漫たる桜花の下にたむろして酒を酌み交わし、秋は絢爛たる黄紅葉を求めて山の峡を歩みめぐる。また夕景に及んで悄然とひとり沢に立つ鴫を見出しては世の寂寥をいたく思う。かくて日本の四季は、穏和にしかし確かに巡廻してゆく。
その中にあって男も女も老いも若きも互いに心を寄せ合い言葉を懸け、韻律ある詩歌を相手の心の奥へと届け合う。これが連綿として絶えず、そこに日本の古典文学が成立した。
主要な古典から約3200語を選出し、語源を考察、類義語の意味の相違に注意を払う。語の成り立ち(起源や変遷)に注目。日本語の内部だけでなく、グローバルな視点から、日本語の成立に関係あると思われる外国語についても考察。大野さんのタミル語研究の成果を伝える。
帯に大江健三郎さんの推薦文。
[あはれ。カナシとは違う。事態に向かう共感という、根柢の姿勢がある。]『源氏』を引きながらのさらに深い指摘に私は大震災の現場で周囲を心遣いしつつ語られる女性に受けた感銘を思う。「先生は亡くなっていない。辞書を開くと教えてもらえる」。井上ひさしの預言は、この豊かさも語り口の伸びやかさも突出する新著で実現された。
(平野)