週刊 奥の院 10.17

■ 三島邦弘 『計画と無計画のあいだ  「自由が丘のほがらかな出版社」の話』 河出書房新社 1500円+税
 1975年京都生まれ。編集者を経て2006年「ミシマ社」設立。取次会社を通さず、書店と直接取引をする出版社。年に6〜7点の新刊を発行。そのほとんどが版を重ねている。自分たちにしかつくれない本を1冊1冊気持ちを込めてつくっていく、をモットーにしている。9月に京都オフィスを設立。
 出版に限らず、「独立・起業」はたいへんなことです。理想や夢だけでは維持できません。それでも著者は、ある意味不幸のどん底で、「出版社をつくろう!」と思いつくのです。
《「これまで」のやり方》から《「これから」のやり方》で未来を築いていこう、と。
 経営の問題。会社をつくってすぐに大きな壁。金欠。

(妄想上の若くてきれいな女性教師)「ここに三百万円ありました。設立時に百万円を使いました。すると、残金は二百万円になります。この残金で、本を一冊発刊しました。印刷代、印税、デザイン代など一冊にかかる費用は二百万円でした。ですが、本を出してから、その売上金が入ってくるまで七か月かかります。この間に残金すべてを支払いにまわしたとしましょう。さて、残りの残金はいくらになるでしょう? わかるかな」
(小学三年のぼく)「はい!」
「はーい、ミシマ君、わかった?」
「はい。ゼロ円です」
「正解! すごいね。よくわかったね。じゃあ、この会社はこれからどうなるでしょう」
「倒産します」
「ご名答!」
 たしかに小学生のボクでも簡単に「ご名答」を得ている。にもかかわらず、大人になったぼくはギリギリまで予想できなかった。情けないことに……。

 
 著者は、ここから《生かすべき「学び」》を導き出した。
1. 人は小学生でも気づきそうな計算をときに仕損じる存在である
2. 私はいわゆる「向こう見ず」で「行き当たりばったり」な存在である 

 金欠。銀行通帳を見ながら、
「多いに焦った。やばい!」
 その瞬間、決意を固める。
「人を雇おう」

ナニワ金融道」なら、雇った人間に借金させて……、となるでしょうが、著者の考えはもちろん違う。
 出版社としての自立=自社営業、と考えてのことだ。最初の2冊は他社に営業を委託していた。出版社の両輪、編集と営業が連動しなければならない。そして、雇った営業タイヤ・ワタナベは円ではなく、四角だった。さらに、「巻き込まれ体質の女」キムラ。登場人物だけでマンガかドラマになりそう。
 07年6月、内田樹『街場の中国論』刊行(内田さんはミシマ社誕生から応援をしていた)、この本から直取引開始となった。

 ……ぼくたちはマーケティングをしない。いわゆる事業計画みたいなものもない。年間の発刊点数もはっきりしない。融資といった銀行との取引もない。
 ひとことでいえば、計画性がない。
 だからといって、いい加減なわけではない。

 ちゃんと世間の基本的ルール(支払いや給料や)を守っている。そのうえで、チームとしては戦略的にならない。
 

 結局のところ、「一冊入魂」以外にとりうるやり方はない。この一冊が売れないことには次の一冊を出すことができない。ミシマ社がなんとかかんとか、会社として回っているのは、この一冊を買ってくださる読者の方々が全国にいるからこそだ。毎日、ジャンルは違えど、魂を詰め込んでつくりきった一冊を、受け止めてくださる人たちがいるからこそ、会社はなりたっている。

 著者は「原点回帰」と言う。1冊1冊心を込めてつくり、販売する。出版を“ビジネス”と考えていない。売る我々も、心を込めないといけません。  
 ミシマ社はこちら。 http://www.mishimasha.com/
(平野)
11月のイベント決定
 石井光太さん トーク&サイン会
『遺体 ―震災、津波の果てに―』(新潮社)刊行記念 津波の跡を歩いて 聞き手 松本創
● と き  11月5日(土) 14:00〜16:00(開場13:30)
● ところ  海文堂書店 2F・ギャラリースペース
● 主催:新潮社  協力:140B
● 入場無料
■ 要「整理券」。先着50名様に整理券をお渡しいたします。
 海文堂書店店頭で、またはTEL・FAX・メールにて海文堂書店までお申し込みください。
  (お申し込みの際には、お名前・電話番号・参加人数をお知らせください)

詳細は【海】HPをご覧ください。
http://www.kaibundo.co.jp/index.html

 おかんアート展 終了しました。 多数の皆様にご来場いただきました。ありがとうございます。