週刊 奥の院 10.11
“読書の秋”だからということもないでしょうが、ブックガイドがいろいろ。
■ 『井上ひさしの読書眼鏡』 中央公論新社 1300円+税
読売新聞連載(2001〜04)を中心に。
「不眠症には辞書が効く」「古本、今が絶好の買い時」「歴史教科書、徹底論議を」「伊能忠敬の業績を網羅」「よりマシな世界のために」「新宿に生きた林芙美子」「過去を究めて未来が見える」他。
「米原万理の全著作」(米原万理展図録)「藤沢さんの日の光」(文春ムック『「蝉しぐれ」と藤沢周平の世界』)
■ 平松洋子 『野蛮な読書』 集英社 1600円+税
『すばる』連載。
書名の由来は何だろう? 見当はずれは毎度のこと、むかーしお客さんが言っていた言葉を思い出す。
「食い意地が張っててなー、小さい時からおもろいいうたらマンガでも小説でも何でも読むねん」
私より2,3歳上の実業家でした。
平松さんは?
京都土産の「カステイラ」を眺めながら、おいしい夕ご飯を食べて、「ごちそうさま」と言った瞬間、「カステイラ」を食べたくなり、箸で食べてしまう。フォークで食べるのとはちがう感覚。
……快感もいっしょに湧いてくる。お菓子の山を箸で崩して食べるという無謀な仕業、野蛮な感じ。どうにも行儀はよろしくない。しかし「カステイラ」は動揺も見せず、それどころか泰然。
……そうか、そういうことだったのか。箸で切り崩した卵色の断面を眺めて、わたしは感じ入った。野蛮を許しあえる関係は、余裕のないガチンコ勝負とはちがう。もちろん、ただの粗野とも違う。お互いを知ったうえでの懐のふかさの競い合い(化かし合い、含む)。脈絡はないのですが、なぜかついでに「恋愛は知的教養」というフランス人の肝のすわった恋愛観も思い出しました。あら野蛮ってイイワネ。
旅に持っていく本を選び、宿で本を見つけ、ふと子どもの頃蒲団のなかで読んだ本を思い出し、旅から帰るとまた本……。
■ 鴻巣友季子 『本の寄り道』 河出書房新社 2200円+税
“読みふける喜び、そして道草の楽しさ。 翻訳家にして稀代の書評家……”
2004年からの書評、全240冊。
20代前半から翻訳一辺倒だった。40歳くらいから書評を依頼されるようになり、いまや翻訳と半々か、むしろ書評の方が多いか、という生活。
……
「翻訳と書評とエッセイの仕事はどう違うか。どのように頭を切り換えているか?」
わたしにとって書評とは翻訳である。
そして、翻訳とは一種の書評である。
このふたつは、わたしにとって水源を同じくするものなのだ。
……
わたしは遅読の人である。読んだ後は、自分はひと晩寝てから、本はひと晩寝かせてからでないと書きだせない。読書人としてだけでなく、仕事人としても「効率」がわるい。
好きな本は、「効率」を度外視した本。著者は「寄り道文学」と名づける。逸脱・道草・脱線の楽しさを語る。
■ 西部邁 佐高信 『ベストセラー炎上 妙な本が売れる変な日本』 平凡社 1500円+税
ブックガイドというより、ベストセラー本・著者を俎上に現代日本を語る。批判の的は、勝間和代、村上春樹、内田樹、竹中平蔵、塩野七生、稲盛和夫。
おおむね拍手! ですが、私、内田ファンなので、そこだけちょいと辛い。批判的に読むことは心掛けますが。
クリテーク(批判)とは他者を誹謗したり中傷したりすることではありません。
……
(両名は)批判相手の著名度に意を払いません。つまらぬこと限りなしと批判するしかない類の有名人の書物に対しては、トンデモナイ、クダラン、バカヤロウと、広言しないまでも、万已むを得ず公言してしまうのです。ただし、語気高くバカヤロウと怒鳴るわけではありません。この二人、自分も莫迦かもしれないとわきまえているものですから、発音にも気をつけて、バ〜カ〜ヤ〜ロ〜ウと……。(西部)
……歯ごたえのない本、デタラメな本がベストセラーになりすぎる。私たちのこの本は、そんな本をベストセラーにするこの国の人への怒りの弾劾書でもある。(佐高)
(平野)