週刊 奥の院 10.6
■ 谷川俊太郎 『東京バラード、それから』 幻戯書房 2200円+税
40年くらい前の連作詩「東京バラード」と現在をつなげる本を作ろうと、編集者が提案。谷川さん、詩と前後して撮り始めた写真も組み合わせてみよう、となった。新作「思い出リミックス」7篇も。
本書巻頭の詩は「an epigraph」(「東京バラード」から)。
東京では 空は
しっかり目をつむっていなければ見えない
東京では 夢は
しっかり目をあけていなければ見えない
他に、「十円玉」「新宿哀歌」「東京は」「神田讃歌」「まみむめも東京」……。
「思い出リミックス 1」
家々の裏口に置かれていた
黒いゴミ箱はいつ姿を消したのか
東京ではゴミはもう大地に帰れずに
煙となって昇天する
泣きながら捨てたものも
怒りのあまり捨てたものも
取り返すすべはない
だが心に溜まったゴミは
澱となって沈殿している
透き通る思い出の上澄みの下に
今も
〈詩〉という、文学に属しながらも文学からはみ出そうとするものは、この地球上の一都市である東京にかかわりながら、同時に宇宙を文脈として自らを規定しようとしているように見えます。古い写真を見直していると、時折亡くなった身近な人の生前の姿に出会います。そんな時、私が感じるものは哀しみや寂しさの混じった詩的な感動です。詩も写真も、物語と違って時間に沿って進むのではなく、むしろ時間を一瞬止めることで、時間を越えようとするものなのかもしれません。
東京は谷川さんの故郷なのでした。あたりまえの感想ですみません。
(平野)