月曜朝礼 新刊紹介
【芸能】アカヘル撰
■ 中野正昭 『ムーラン・ジュール新宿座 軽演劇の昭和小史』 森話社 3500円+税
土地勘のない者(私ですが)にはチンプンカンプンなのですが……。
武蔵野通りは今ではすっかり寂れた雰囲気を感じさせる。が、昭和の戦前・戦中までは、武蔵野通りを含む「角筈(つのはず)」界隈が新宿で最も賑やかな場所だった。(当時広い範囲が角筈1丁目で、戦後「角筈1丁目」「新宿3丁目」「歌舞伎町」に区分される)
……ラジオドラマで『向こう三軒両隣』などで知られる劇作家の伊馬春部はそんな昭和初期の武蔵野通りの様子をパリの学生街「カルチェ・ラタン」のようだったと記している。
徳川無声をチーフとする超一流の説明者陣を誇る無声映画のメッカ武蔵野館、そのストリートの奥、甲州街道の手前のところ、エステル、仏蘭西屋敷、ジャスミンなどの喫茶店や十銭スタンドのほか、すぐ筋向かいの横丁には名画上映の二番館である昭和館、また近くには紀伊國屋書店など即ち学生・インテリの最も蝟集する羅甸区(カルチェラタン)ともいうべき若きエネルギーが盛りあがり、また同時に芸術的文化的ムードの漂う区域である。(「ムーラン・ルージュ物語」『歴史と人物』昭和48年11月号)
60〜70年代の若者と文化が溢れる街の姿は、昭和の初めに既にあった。
現在の新宿国際劇場(ポルノ映画専門らしい)の場所に、劇場「ムーラン・ルージュ新宿座」があった。パリの有名なレビュー劇場にちなんで「赤い風車」の名称、そして赤い電飾の風車を設置した。大きな目印になる。座席数430。現在なら中劇場の規模だが、当時の劇場のなかでは小劇場だった。
若者たちは中村屋のカレー(1円)を我慢して安い大盛りカレー(25銭)を食べ、浮いた分で「ムーラン・ルージュ」の夜8時からの割引に並ぶ。若き日の黒澤明や川島雄三も並んだ。プログラムは喜劇3本、踊り子総出演のヴァラエティ1本だが、夜の割引だと最後の芝居半分とヴァラエティを観ることができた。
この劇場が演劇・芸能史に名を残しているのは、公演回数の多さと出演者・スタッフの顔ぶれの見事さゆえ。出演者の一部。左卜全、有島一郎、益田喜頓、由利徹、森繁久彌、三崎千恵子、仙石規子、楠トシエ、春日八郎……。
ちょうど記録映画が新宿で公開されているよう。http://shinjukuza.com/
著者は1971年福岡県出身、早稲田大学坪内博士記念演劇博物館研究員、早稲田・明治・立教他で講師。古川ロッパの研究など。
【児童書】
■ シェル・シルヴァスタイン作 長田弘訳
『めっけもののサイ』 BL出版 1300円+税
シルヴァスタイン(1930〜99)は『おおきな木』や『ぼくを探しに』で著名。詩人・ソングライターとしても活躍し、グラミー賞2回受賞。アカデミー賞にもノミネート経験あり。
めっけもののサイ、だれかほしい人いる?
売りにでてるサイが1頭いるんだ。
耳はへなへな 足はごちごちだけど、
なかよくなれば しっぽをぱたぱたふるし、
いいやつで、でっかいけど だきしめたくなるよ。
ねずみみたいに むくちだし、
家のことなら、何だって
まかせてだいじょうぶ。
たとえば、こんなふうに……
コートのハンガー、でんきスタンド、お父さんにおこづかいをもらうのがうまい、お母さんにしかられるのをふせいでくれる……
(平野)【文芸】は担当休みで、なし。