週刊 奥の院 10.1
■ 矢崎泰久 『あの人がいた』 街から舎 1600円+税
『話の特集』(1965〜95)編集長。東京のリトルマガジン『街から』に3年間連載したエッセイ集。今は亡き16名の友人・知人の素顔を描く。
「夢配達人の置き土産」 草森紳一
ある日、という書き出しは気に入らないが、やっぱり、〈ある日〉からしか始まらない。ある日、カメラマンの立木義浩が、栄養の悪そうな釘のように痩せた青年を連れてきた。
「このひと、婦人雑誌の編集者だけど、役に立つかも知れないと思って……」
「草森紳一っていう名前だけど、ボクはシンちゃんと呼んでいるんだ。おない年だしね」
東京オリンピックの翌年、矢崎は新しい雑誌を準備中。立木はタっちゃん、和田誠はマコちゃんで、篠山紀信はオシノ、谷川俊太郎はシュンちゃん。他にも栗田勇、寺山修司、横尾忠則……。
シンちゃん、「伊丹一三に会ってみる?」
自分の雑誌にエッセイを連載中で、大好評だった。のちに「十三」と改名。
生い立ちについては、余り語ろうとしない人だった。あるいは出生にまつわる秘密を山ほど抱えていたのかも知れない。だから謎も多い。
「オレがガキの頃は何もなかったからね。何でもやるしかなかったのよ。不良だって……」
親しくなってから、渥美清はちょっと凄みを効かせた顔をして、こんな風につぶやいたものだ。
最初に私が知ったのは、浅草フランス座の専属コメディアンだった。……
新聞記者だった矢崎は顔パスで浅草六区のあちこちのストリップ小屋に入り浸っていた。同じ頃フランス座の専属作家に井上ひさしがいた。
『創』の永六輔さんとの対談を愛読しているが、まったく違う矢崎さんがいる。あとがきでは、三島由紀夫と安部公房と石川淳、川端康成による記者会見のことが。一体、何?
http://www.machikara.net/event.pdf
10.1〜11.4 1F東入口
こんな本を並べます。
○『じいちゃん ありがとう こども聞き書き百選2』ほか 奥会津書房
○『會津ManMa』
○『ふくしま自然散歩』ほか 歴史春秋社
このたびのフェアでは福島県の小出版社の本を集めます。福島は遠い、広い。今、思い浮かぶ言葉は「大震災と原発」というのは寂しい、辛い。福島には豊かな自然と歴史、人々の暮らしがあります。地域に根ざした出版物の数々を紹介します。
被災地のことや原発問題についてエラソーなことは申しません。多様で豊かな地方小出版の活動の一端をご覧ください。静かな情熱と篤い志を感じとってください。
このフェアを思いついた時に躊躇がありました。遠い、しかも自分が一度も行ったことのない、これまで何の思い入れもなかった地方の出版物を、ただ並べていいものかどうか。仙台「荒蝦夷」フェア時の「激励の言葉より、本を売る!」の気持ちは継続しています。大災害だけではない、深刻な犠牲を背負っている「福島」を取り上げるには、もっと大きな意義を表明すべきだと。不確かな負い目があり、力む気負いがあります。
「荒蝦夷」の時は先方から電話があり、本が無事ならフェアをしましょう、となりました。本屋にできることがありました。私が救われました。今回、自分の気持ちが定まらぬまま「福島」に声をかけてしまいました。それでも彼らは応えてくれました。奥会津書房のEさんの言葉を紹介します。
「奥会津は幸い様々な災害からかろうじて被災を免れた土地でありましたが、種々と緊迫した日々の中で、はるばる御地から、思いがけない温かいお心を賜りまして、感謝で一杯でございます。(略)ありがたいお話を承りながら、涙が溢れました。……」
また、私が救われました。理屈はいりません。
「いい本がある、売る。」
これでいいのだと思いいたりました。
今月下旬発売の『ほんまに』第14号の特集は「東日本大震災と本」です。被災地を廻る作家、編集者、営業マン、書店員に寄稿してもらいます。ご期待ください。
会津から吹く秋風と本並べ
【海】HP更新しました。 http://www.kaibundo.co.jp/index.html