週刊 奥の院 9.30

◇ 今週のもっと奥まで〜
■ 東野圭吾 『夜明けの街で』 角川文庫 629円+税
 建設会社勤務渡部、派遣社員の仲西秋葉と不倫。彼女には複雑な事情があった。父親の愛人殺害容疑。
 映画化、10.8公開。岸谷五朗深田恭子主演。
食事をして、お酒飲んで、ボウリングのデート。彼女の実家まで送っていく。豪邸。ちょうど彼女の父親が出かけるところ。挨拶をして家に入る。

「この部屋に入ったの、何ヵ月ぶりかな。……この家に帰ってきても、自分の部屋に行くだけです。……父はこの家を手放したがってるんです」
「こんな家、誰も欲しいなんて思うわけないです。……人殺しのあった家ですよ」
(秋葉はテーブルの上に寝そべり、大の字になる。彼女が酔っていることに気づいた渡部は帰ろうとする)
 歩きだそうとする僕の足に秋葉はしがみついてきた。
「行かないで」彼女は僕のズボンの裾を摑んだまま、テーブルからずり落ちた。ソファとテーブルの隙間で四つん這いになった。
「もう休んだほうがいいよ、俺は帰る」
「だめ」彼女が抱きついてきた。
「こんなところで一人にしないで」
……
 ゆっくりと秋葉の身体を抱きしめた。指先は彼女のしなやかさを感じ取った。彼女の体温が静かに僕のほうにも流れてきた。
……
 僕たちは唇を合わせた。その途端、立った今まで僕の頭に広がっていた様々な迷いが、氷山が壊れるように崩れ始め、やがては融け、流れだした。それは大きなうねりとなって僕の頭の中をごうごうと廻っていたが、ついにはどこかの穴に吸い込まれていった。バスタブの栓を抜いたようなものだ。
「部屋に行きます?」秋葉が訊いてきた。……


映画公式サイト http://www.yoakenomachide.jp/index.html
(平野)