週刊 奥の院 9.25

■ 中島俊郎 『オックスフォード古書修行  書物が語るイギリス文化史』 NTT出版 2400円+税

……そもそもオックスフォードといえば大学の街を想像してしまうが、わが解釈にしたがえば、ここはもっとも魅惑あふれる古都(古書の都という意味だが)なのである。古色蒼然とした古書店ばかりが軒を並べているという意味ではない。本自体が熟成してメッセージを読む人に訴えるには、ある程度の時間の堆積を必要とする。本には「時という腐葉土」がなくてはならない。ここには本を発酵させる静かな時の堆積が沈潜している。読書人にこれほどの楽園はまたとないであろう。……

 
 彼の地には大きな新刊書店もある。2社のオークション会社が2カ月に1度はどこかでオークションを開き、ロンドンでは月1度ある。さらに頻繁に古書展が開催される。教授はほんとうに研究のために渡英したのだろうか? 本屋とパブに入り浸りであったのでは?

……たしかに大の字(超と言う字でもかまわないが)が付くくらい本好きではあるが、初版本、限定本や珍本をあさるコレクター、愛書家、ましてや本を本ゆえに愛する書痴という範疇にはいる人間ではさらさらない。……

 
 1949年生、甲南大学英文学教授、「大狸」の異名を持つ書物愛好家。
 教授によると、あちらでは本は1世紀以上の歳月がたって「古書」と見なされるとか。“ベストセラー”よりも古典作品や歴史書が地道に読みつがれているそうだ。

目次
はじめに――古書の花咲くオックスフォード
第1章  いざ出陣――挿絵本は不滅なり
  国民的人気作家ウォルター・スコット
第2章  信じられない成果――婦人雑誌は花ざかり  ヴィクトリア朝の編集者ビード夫妻による婦人ファッション雑誌
第3章  善戦また善戦――ナンセンス詩人はいずこへ  漂泊の画家・詩人エドワード・リア
第4章  武器補充――レシピ本は笑う  「アリス」に登場する「ニセ海亀」とレシピ本
第5章  しばし休戦――寿司をつまむゲーテ  ドイツ・イギリス文化交流 (寿司をつまんだのは教授)
第6章  接戦の末――ワーズワス、おおいに歩く
第7章  矢も尽き刃こぼれ――本は自転車に乗って
第8章  あやうい勝利――秘密は「蜜」の味  (ここで、昔元町にあった「川瀬日進堂」のことが。あらためて紹介するつもり)
第9章  戦い終えて――翻訳三大噺
結びにかえて――遥かなるオックスフォード

(平野)たぶん、イベントがあるのではないだろうか。
季村敏夫さん『ノミトビヒヨシマルの独言』(書肆山田)が第29回現代詩花椿賞受賞。おめでとうございます。