週刊 奥の院 9.9

◇ 今週のもっと奥まで〜
■ リシャール・コラス 『紗綾 SAYA』 ポプラ社 1500円+税
 著者はフランス人。在日フランス大使館勤務から実業界に、95年シャネル日本法人代表。現在フランス商工会議所会頭他重職を務める。06年小説発表。09年、本書で「みんなのための文化図書館賞」受賞。日本語版出版にあたって、ご本人が日本語で執筆。
 主人公は、大手デパートのエリート幹部・神脇と、フランス帰国子女・紗綾16歳。神脇はフランス勤務から帰国、突然リストラ宣告される。気力を失った中年男、喫茶店でフランス語のコミックを読んでいる紗綾にフランス語で話かける。互いに強く惹かれ、関係を深めるが、運命は悲しく……。

……
 うす暗い部屋だった。
 紗綾は私の鞄を強引に取り、自分は靴を脱ぎ捨てた。そして私の前にしゃがんで靴の紐をほどき、靴を脱がせた。彼女は私の手を惹いてベッドのほうに導き、首に手を回してきた。腿を私の体に押し付けてくる。私はなんとか彼女に触らないようにした。
 この手で彼女に触れたら、罪になってしまう。
 彼女は私の肩にしがみつき、首すじのあたりに顔をうずめていた。しばらくの間そのままじっとしていた。彼女の体の熱さが、洋服を通して私の体に伝わってくる。彼女はかすかに震えているようだった。
 私の息で彼女の髪がなびく。懐かしい香りが鼻をかすめる。彼女から漂う若い官能に気持ちが揺れたが、私は何もしなかった。
 彼女が私の耳を愛撫し始めたとき、私はさすがにまずいと思い彼女を突き放そうとした。しかし、絶望的な麻痺が毒のように体を回っていて、私は少しも動けなかった。獲物に催眠術をかけて火をつけようとするこの女に、私は捕まったのだ。
……

(平野)10月 “福島フェア(仮)” 宣言! 10.1〜11.14
『oraho』 「おらほ」は会津の言葉で「わたしの土地」「わたしの住んでいるところ」という意味。「o ra ho」の3音はどんな響きなのでしょう。ぜひ現地の人の発音、正調会津弁を聞いてみたい。