週刊 奥の院 8.31
■ 綱本武雄 絵 加藤正文 文
『工場は生きている ものづくり探訪』 かもがわ出版 2000円+税
2008年から10年にかけて神戸新聞に連載した「工場の歩きかた 産業ツーリズム入門」、加筆・再取材して出版。綱本さんは1976年神奈川県生まれ、建築デザインと都市政策の専門家。地域環境計画研究所代表。加藤さんは64年西宮市生まれ。神戸新聞経済部次長。
“工場見学”が人気でガイド本も多数出版。
本書は、「ものづくりの力を、今までにない手法で表現」する。表紙は神戸製鋼所。
【綱本さん】圧倒的な物量に息をのみ、火花にときめき、技術者の言葉に目頭を熱くする。体当たりの取材。
工場というのは、最高にポジティブな空間である。何かを生み出すことにとりつかれた場所と言ってもいい。……その工場の何がすごくて何が普通かというと、ひと目では分からないこともある。読み解くには働く人の肉声が必要だ。見えるもの、聞こえてくるものに解説が乗って初めて、ただの灰色の箱にしか見えない機械に技術者のアイデアが詰まっていることを知り、雑然と見えた工場のレイアウトにも意味があると気づくことができる。
【加藤さん】東日本大震災では工場が損壊し物流が絶たれ、部品供給網が壊れた。グローバル化とか効率性とかコスト削減で、一地域の一工場が停止すれば全体が機能しなくなる。日本のものづくりは脆い状況である。
阪神・淡路大震災、経済危機を乗り越え、情熱を注ぎ込んでいる企業の姿に、地域再生の原点を見る。兵庫県から被災地に復興のエールを贈る。
しなやかで強いものづくりを、どうよみがえらせるか。それは、人間重視を貫き、地域に根差す――という原点を見直すことにほかならない。
○震災を乗り越えた不屈の精神 神戸製鋼所
○世紀を超えた匠たちの情熱 三菱重工業神戸造船所
○物流を支えるキリンたち 神戸国際コンテナターミナル 大森廻漕店
○発酵の技を凝らす 沢の鶴
○ダンボール 包容力大きな優れもの 日本紙器
○報道を支える高速運転 神戸新聞総合印刷
○皮が革に飛翔する瞬間 山陽
○計算力を支える地域内分業 小野のそろばん
○地産地消にこだわる 六甲味噌製造所
……
重厚長大産業から伝統産業まで、世界を市場にする産業から地域の消費者向けまで、製品を生み出し続けている工場と技術者たちの真摯な姿を見ていただきたい。
内橋克人さんの推薦文。
人が動き、知が跳ね、命が立ち上がる。記者と画家の名コンビが現場を這いずり回ってすくい上げた「匠たち」の熱い息づかい。本書の1シーン1シーンに私たちの明日への希望が光っている。
左 三菱電機「伝承技能」で紡ぐ新時代 川重「船が母胎から生まれる瞬間」
右 濱中製鎖 神姫商工他
(平野)中経文庫から『神戸今昔散歩』(原島広至著、657円+税)発売。絵はがき・古地図を現在の風景と重ねて、神戸案内。
また、「元町商店街復刻絵葉書」8種(各158円、タイムロマン)販売中。