週刊 奥の院 8.12
◇ヨソサマのイベント
■ 無垢の画家 石井一男 9.6(火)〜10.30(日)月曜休館
BBプラザ美術館 電話 078−802−9286 入館料:一般300円 高・大生200円 小・中生100円
協力:ギャラリー島田
今月のちくま文庫。
■ 山村修 『増補 遅読のすすめ』 780円+税
著者名「山村」なのに、著者記号は「き」。なんでか? というと、著者は当初ペンネーム「狐」で書いていたから。大学図書館勤務のかたわら1981年から2003年「日刊ゲンダイ」に書評。06年、肺がんのため死去。
本はゆっくり読む。ゆっくり読んでいると、一年にほんの一度や二度でも、ふと陶然とした思いがふくらんでくることがある。
『吾輩は猫である』のラスト近くの一文、
「呑気と見える人々も、心の底を叩いて見ると、どこか悲しい音がする。」
読むこと三度目で、この文章に気づく。
こんなひそやかな夜闇の光景が、こんな寂然とした言葉が、この小説にあったのかと。
これまで気づかなかった。
答えはきまっている。速く読んだからだ。
解説は佐久間文子さん(ハートマーク、いっぱいつけたい)。
先の一文について、
「……できれば次は自力でこうした発見をしてみたい……」
■ 鴻巣友季子(こうのす ゆきこ) 『全身翻訳家』 760円+税
翻訳家・文芸評論家。最初の翻訳書出版は1987年。
「ただただ、ひたすら、やみくもに、原文の一字一句を日本語に移していたら、いつにまにかそんな月日が経っていた」
「わたしの世界との接点は、ほぼすべてが翻訳を通したものだ。……書評もエッセイも、翻訳の一部。読んだ本を自分なりに解釈し翻訳するのが、書評であり、自分の生きている世界を自分なりに読んで翻訳して書くのがエッセイである」
「なにを見ても翻訳に結びつき、なにを見ても翻訳を思い出す。私という人間は翻訳を通してようやく世界とつながっている」
すなわち『全身翻訳家』。
■ 小玉武 『洋酒天国』とその時代 1000円+税
元『洋酒天国』編集長。
プロローグ――伝説の雑誌『洋酒天国』
第1章 その水脈から 第2章 佐治敬三が創刊した『ホームサイエンス』 第3章 開高健の〈雑誌狂〉時代 第4章 山口瞳と『洋酒天国』綺譚 第5章 柳原良平と「アンクルトリス」の軌跡 ……
エピローグ――昭和三十年代、企業文化の覚醒
解説 鹿島茂
■ ジョン・レノン 『絵本ジョン・レノンセンス』 訳:片岡義男、加藤直 800円+税
序文、ポール・マッカートニー 原書は1964年刊。日本語版は75年、晶文社。本書では英文も。
序文から。
ミミ伯母さんに聞いたところ、ジョンは世捨人について学級新聞に詩を書いた。
「息をすることが私の人生ですから、あえて息をとめるようなことはあえていたしません」
ポールは考える。
「彼は深みのある人間なのかな。彼は眼鏡をかけていたので、深みのある人間だという可能性はあった。たとえ眼鏡をかけていなくても彼をよくわかることは出来ない。……この本におさめられている話はどれも意味をなさなくってもいいのですから、なんとなくおかしければ充分なわけなのです」
ポールも充分おかしい。
■ 辻原登 『熊野でプルーストを読む』 800円+税
■ 夏井いつき 『絶滅危急季語辞典』 950円+税
■ 東雅夫 編 『妖魅は戯る』 880円+税 などなど。
(平野)