週刊 奥の院 8.7

■ 久松健一 『書物奇縁』 日本古書通信社 1200円+税
  
 明治大学准教授、フランス語・フランス文学。古本エッセイ。6月新刊、遅まきながら紹介。
 大学院時代、ケガで入院。同室の老紳士、看護婦さんによると「命がけ」の古本屋さん。話かけてみる。ある作家の「ベッドで本を読むことは幸福感の入り交じった知的な安心感を誘う快楽だ」という話をしてくれる。自分は本が好きで、本のことしかわからん、と。さらに、集めるには気迫がいる、いや殺気だ、とも。
 著者が退院の時、老紳士は目録をくれる。印のついた本を探して読め。1冊2冊と読んでいく。
「……そのうちに、妙な読後感を憶えるようになった。一見、脈絡のないバラバラな書物を読み進めているはずなのに、実は、可視できない標識に導かれて、ある既存の道路の上を逆向きに引っ張られていっている」感覚。やがて、本を探すことはなくなる。
 しばらくして、神田の古書店でフランス語の『マルセル・シュオッブ蔵書目録』を手にする。そこには老紳士の目録とほぼそっくりそのままの本(原書と翻訳書の違いはあれ)が並んでいた。病院で聞いた作家の話はシュオッブのことだった。老紳士の顔はシュオッブの肖像画に恐ろしいほど似ていたと感じるのであった……。 (「書物奇縁」より)
 目次
1 「中央評論」・「図書の譜」より  書物奇縁  古書熱“鹿肉元気”の誘惑  古本探偵『平和の顔』を訳した人
2 早稲田文学」より  風に舞いこんできたの記  寺山修司メビウスの帯のように
3 日本古書通信」より  肉体は死して―生田耕作の蔵書  フランス語はかく学ばれていた  紙破れて損があり?―反町茂雄の気概  奥付十月九日―甦る小説家・佐藤泰志 ……
あとがきにかえて  彷書月刊」より 
(平野)マルセル・シュオッブ、かつてコーべブックスが『黄金仮面〜』というのを出版していた。持っていません。
手元にある『別冊・幻影城』(1975−9)にコーべブックスの出版広告。
 黄金仮面の王  矢野目源一訳  厳粛にして悲惨を極めた一大燔祭、中世語に該博な知識を誇る鏤刻の士・マルセル・シュウオッブの短篇小説集/解説種村季弘 八月二十日刊行 定価二五〇〇円
幻影城』1977.5月号には、
 マルセルシュオッブ小説全集 全五巻 の第1回配本の広告。全巻出版されたのだろうか。